問題が読み上げられる。「水力や太陽光発電は発電時にCO2を出さない」。みんなゾロゾロとYESの方へ移動する。「これは簡単だね」と元阪神の星野監督。「では原子力発電は発電時にCO2を出さない」。みんな迷いながら、YESとNOを行き交う。「原子力発電は発電時にCO2を出しません」。正解が読み上げられ、画面に0の大文字。「ゼロかぁー」「ゼロなんだー」。驚きの声とともに星野監督が大写しになり、「いいねー、真っすぐ低炭素の社会へ」。福井の原発の写真をバックに、「関西電力」のロゴ。 福島原発事故後、このCMは全く流れなくなったが、昨年まで関電は「星野監督バージョン」、東電は「草野仁バージョン」など、電力会社は原発に関するCMをバンバン流していた。ここではなぜこのようなCMが流れていたのか、について検証しよう。
ここに車が欲しい人がいるとしよう。その人はトヨタにするか日産にするか迷っている。そんな時にトヨタのCMが流れる。「よし、プリウスを買おう」。これがCMの効果である。
一方関西電力はどうか?関電は地域独占の企業である。関西に住んでいる以上、電気を使いたければ必ず関電と契約しなければならない。
つまり、関電も東電もCMを流す必要がない。黙っていても契約してもらえるのだから。
ではなぜ関電や東電は、不必要なCMを流していたのか?
その答えは電気料金の仕組みにある。
私たちの電気代は、「総括原価方式」で決定される。
電気代は電気を作るのにかかった必要経費と、電力会社が受け取る3%の適正報酬を足した額で決まる。原発CMは「原子力発電の効果を正しく知ってもらう」ための「経費」であるから、CM料金は、電気代金に含まれてしまう。つまり関電は、CMをいくら流しても、自分の腹は痛まない。後から電気代として回収できる。一方、テレビ局はどうか?冒頭の「星野監督出演 原発YES OR NO編」を、一回流して仮に100万円だとする。一日10回流れれば、それだけで1千万のCM収入が、読売放送、関西テレビ、毎日放送、朝日放送などに転がり込む。結果、「原子力は安全です」「クリーンなエネルギー」というウソのCMがお茶の間に流れる。
逆に「原発は地震が来たら壊れるよ」「チェルノブイリ級の事故が起きれば、故郷はなくなってしまいます」などのドキュメンタリーをテレビで流せば、東電や関電が激怒するので、テレビ局は「自粛」する。
電力会社は、このようにしてテレビや新聞を支配した。マスコミを握り、根拠のない「原発安全神話」を作っていったのだ
この電気代の仕組み=総括原価方式は、電力会社は喜ぶが、私たち庶民にとってはとても問題のある制度である。
例えば福井県の「もんじゅ」。あれは約1兆円もかけた、危険きわまりない「壮大な無駄遣い」であるが、電力会社は1兆円×3%=300億円を、適正報酬として手に入れる。仮に「もんじゅ」を節約して1000億円で造ってしまえば、30億円しか儲からない。
日本に高価な原発が、なぜ54基も造られていったのか?
それは「原発が高価なら高価なほど、造れば造るほど」電力会社が儲かる仕組みだったからだ。結果、どうなったか?
日本人は、先進国で最高水準のバカ高い電気料金を支払わされているのだ。
現在、東電の賠償金は数兆円に上るとされる。CMを流す金があるなら、その金を被災者に回すべきだ。原発事故後、東電の「おわびCM」が流れた。本当におわびする気持ちがあるのなら、役員報酬を全て返上し、全てのCMは中止、そして福島で今なお、避難所暮らしをしている人の元に持っていくべきだ。 そしてテレビ局、新聞社など「原発マネーに群がったマスコミ」や、北野たけし、アントニオ猪木、草野仁など「原発文化人たち」は、東北の人々に謝罪して、今までのCM出演料や新聞・雑誌の原稿料などを募金すべきなのだ。 次号は、「原発はCO2を出さないのか?」について検証したい。
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