坂口 道倫さん
有田今回はゲストに坂口道倫吹田社会保障推進協議会会長をお迎えしました。坂口先生は江坂地域で開業医をしておられます。まず最初に、国民の間に大きな怒りと不安が広がっている後期高齢者医療制度について伺いたいのですが。
後期高齢者医療制度は金の面、医療面で問題
坂口この後期高齢者医療制度は二つの点で大きな問題をはらんでいます。一つ目は、お金の面ですね。保険料は上がるし、病院での窓口支払いは増える。本来、日本経済を支えてきた高齢者には、お金の心配なく、安心して受診できる医療制度にすることが国の責任のはずなのに、この制度はまったく逆。お年寄りから金をむしりとろうというものです。二つ目が医療の内容。74歳までは受診できる医療内容が、75歳になったとたんにお金がないと受けられなくなるのです。
す。
あまりに評判が悪いので、政府は慌てて「改善する」と言いますが、制度そのものがダメです。改善や修正ではなく、いったん白紙に戻して、もっと良い制度を作り直すべきでしょう。
有田後期高齢者だけでなく「医療構造改革」のもとで、最近ではお金持ちはデラックスな病室で高度な治療が受けられるようですが、お金のない人は低いレベルの医療しか受けられないという現象が出てきてますね。
巨人軍の長嶋元監督は助かったが…
坂口
そうです。「小泉改革」で、医療全般に「混合診療」という概念が入ってきました。保険治療に自費治療を上乗せする制度です。例えば今でも歯科で虫歯治療するときに「保険の利く治療だけにしますか?自費で行いますか?」と聞かれることがありますね。あの制度を医療全般に拡大するものです。
リハビリなどは医療制度の改悪で、150日〜180日を越えると、その後は自費なのです。巨人の長嶋元監督が脳梗塞で倒れられて、相当なリハビリをして現在は回復されておられますが、長嶋さんの場合も最初は保険が利くのですが、途中から自費になります。長嶋さんがかなり回復されたのはご本人の努力と、お金があったからだと思います。お金のない人は我慢するしかない、という医療制度に変えられてきているのです。
療養病床という言葉があります。数ヶ月入院してかなり落ち着いてきた。しかし退院して家での生活はまだ無理だろう。このようなケースでは、今までは入院が延長されていましたが、今は無理やり退院させられます。ほかの適切な病院に転院できればいいのですが、そう簡単に見つかるものでもない。家にも帰れず、路頭に迷うばかりですよ。
有田
最近の医療改悪は目を覆うばかりですが、先生の病院でも患者さんから「何とかしてくれ!」と怒りの声は上がっていますか?
怒りの声が上がるならマシ、じっとガマンするのが高齢者
国民の怒りはかつてなく高まっている
坂口怒りの声が上がるようなら、まだマシです。それよりも「あきらめ」が先にたつ。お金がないので病院にもいかずに家で我慢しているのです。マスコミもさんざん「老人は病気でもないのに病院へ行く」と、老人医療制度の見直しを煽った時期がありました。高血圧や心臓病を持っている人は、本当なら欠かさず薬を飲まないといけないのに、お金がなくて治療に来ないので、薬も飲まなくなる。そのうち一日3度の食事が2度になり、食事内容も貧弱になっていく。つまり、家の中でじっと我慢しているお年寄りが増えているのです。
有田高齢者や障害者、母子家庭などへの医療に関する助成金を、「財政が大変だ」と削っているのが、今の国と大阪府だと思うのですが、一方で最近クローズアップされているのが「医師不足」ですね。吹田市内はまだ病院がたくさんあって、恵まれたほうかもしれませんが、介護施設などから病院へ転送したい、という場合でも、なかなか受け入れてくれる病院がない、という話も聞きます。医師が不足していて、患者を受け入れることができないのです。どうしてこのような事態になっているのでしょう。
医師は増えているが夜間の救急医師は減る
坂口意外に思われるかもしれませんが、医師の絶対数は増えているのです。しかし実態は夜間救急に携わる医師は少ないし、昼も待合は患者で一杯。医師はその中を走り回っている状態です。原因として、産婦人科、小児科、外科、救急治療などに携わる医師が減っています。大学を出て医師になる新卒者が、そういう厳しい労働条件の科には行きたがらない。またそこで頑張って働いたとしても、身体を壊したりしてやめていってしまう。上記の科目だけではありません。内科や眼科医師も減少傾向にあります。
医師が減っていけば、診療内容も悪化していきますので、病院のあり方が問われていくことになります。国が診療報酬を年々切り下げていきますので、厳しい労働に見合う報酬ではなくなってくる。つまり苦労して医師になったのに「経済的にも社会的にも報われない」状態なので、医師不足が起こるわけです。
さらに女性医師の増加が加わります。女性医師が増えること事態は素晴らしいことですが、日本の医療現場では、十分な出産・育児をフォローする制度も余裕もない。女性はやはり男性に比べて出世も遅い。だから女医さんは途中でやめていくケースが多いのです。いずれの問題をとってみても改善すべき点ばかりです。
市立松原病院閉院を報道する各紙
吹田市民病院は大丈夫?公立病院は大事な役割が
有田難問が山積している医療現場ですが、しかし地域の人々の命を守る現場としてニーズはとても高いものがあります。公立病院の役割が今こそ問われるときだと思いますが、先日大阪・松原市で突然、市民病院の廃止が発表されました。松原市民は猛反対している方々が多いと聞いていますが、率直に言って吹田市民病院は大丈夫?という声が聞こえてきています。
坂口民間病院と違って、公立の市民病院だからこそ、大事な役割があると思います。たとえ赤字になっても、夜間救急や小児救急を充実させて、市民のいのちとくらしを守る責任があるのです。地域社会の安心・安全を保障するから、「社会保障」と言うわけですね。そのためには吹田市の財政から一定の公費負担を行ってでも病院を守るべきでしょう。吹田市も他の自治体と同様に、財政が大変厳しいと聞きます。しかし「何を削って何を守るか」が問われる時代でもあります。国や府が「社会保障切り捨て」の方向なので、厳しいでしょうが、吹田市は踏みとどまって、地域医療を充実させていくべきでしょうね。
有田吹田市民病院も単年度で赤字が出ています。しかし市民病院を廃止するわけには行きません。地域には高齢者、障害者、母子家庭などさまざまな医療を必要とする人々がおられます。医師不足をどう解決していくのか?赤字になれば吹田市からお金を繰入れするかどうか?基本的には、吹田市民の命を守るためには吹田市が責任を持つべきだと思いますが、そんなことを含め、吹田市民病院がどんな病院になっていくべきかを、市民が議論する場所が必要になってきますね。
市民のいのちとくらしを守るために
吹田市はふんばるとき
有田 八郎さん
吹田の地域医療を守る市民的な議論が必要
坂口
そうですね、吹田の地域医療を守るために市民病院の役割など市民的な議論が必要です。病院が赤字になるのは、
(1)医師が不足する
(2)医療の内容が低下する
(3)患者が来なくなる、
という悪循環に陥るからです。今までは大学病院が医師を研修医として各病院に配置する制度でしたが、4年前から医師が希望して病院を選ぶという制度に変わりました。だから地方の大学を出た医師が、地元の病院に就職せずに、人気の高い都市病院に集中するという現象が起きています。吹田市民病院としても、これまでの大学病院との関係を維持しながら、積極的に医師を採用していくという姿勢で臨むべきでしょう。例えば夜間診療を支えるために、夜の8時から12時まで小児科医を臨時で雇用するとか、地域のニーズにあった形態で、医師を確保していくことなども必要になっているのではないでしょうか。
有田議会や吹田市内部では、経営という観点から、市民病院を捉えがちです。確かに市民病院には以前のような黒字経営に戻ってほしいのですが、同時に重要なのは「医療の中身」です。例えば障害者歯科は、吹田市民病院の特色の一つ。なかなか街の歯科医には通いにくい障害者の皆さんから、大変喜ばれています。またお年寄りの介護施設が増えましたが、このような施設と連携して、迅速に対応できる病院になれば、信頼され、大いに喜ばれるでしょう。
吹田市民病院が地域医療の要になるべきだ
市民の要望を吹田市が聞く耳を持っているかが問題
坂口
そんな医療内容も含めた「吹田市民病院のあり方を考える市民会議」のようなものが必要かもしれません。
有田兵庫県丹波市の県立柏原病院では、子育て中の母親が中心となって「柏原病院を守る会」ができました。小児科医が疲れてしまって辞職しそうだと聞いた母親たちが、このままではお産もできなくなる、という危機感から「医師が働き続けられる環境を作ろう」と署名を集めました。一方で、自分たちもちょっとした病気ですぐに病院へ行っていなかったか?と反省。「コンビニ受診は控えましょう」と、病院の医師が働き続けられる環境作りに協力を始めました。すると、やめようと思っていた医師が母親たちの心意気に感激し踏みとどまるとともに、この話に感銘した別の医師もやってくるということになったというのです。
吹田市民病院は都市型ですので、一概に比較はできませんが、このような市民の運動は参考になりますね。
坂口問題は、市民の要望をどれだけ吹田市が聞く耳を持っているか、です。厳しい財政状況ですが、吹田市は操車場跡地を買い取るのに約16億円もの予算を使った、地下鉄今里筋線のJR岸辺駅までの延伸を計画している、などと聞きます。このような開発優先の市政では、市民病院は救えないでしょう。市民が支払った税金の使い道を、今まで以上に監視していかねばならないでしょうね。
橋下知事が医療費助成削減
吹田市はいのちとくらし優先すべき
市民病院を守るため、吹田市はふんばる時
有田大阪の橋下知事が、高齢者、障害者、乳幼児、一人親への医療費助成を削減しようとしています。また、吹田市も国保の引き上げが検討されているようです。市民のいのちとくらしを守るため、吹田市は何を大事にするのか、今こそ吹田市はふんばるときです。市民病院存続はいのちにかかわる問題。吹田市は開発優先ではなく、いのちとくらしを優先にすべきですね。本日はどうもありがとうございました。