有田 八郎さん
有田今回は吹田市社会福祉協議会会長の立川浩次さんをゲストにお招きしました。今の日本は国も地方も財政難の中でかつてない少子高齢化社会を迎えています。特に小泉内閣の時に「痛みを伴う改革」が叫ばれ、福祉や教育の分野で予算が大幅にカットされてきました。厳しい状況の中で市民生活・福祉をどう守っていくのか。社会福祉協議会(以下「社協」と略)の役割はますます重大になってきますね。
社協は民間の社会福祉法人で
構成員は市民
立川そうですね、社協の名前はずいぶんと知られてきたのですが、実際にどんな活動をしているか、については、まだまだご存知でない市民がたくさんいらっしゃると思います。社協は、そもそも社会福祉法に定められた団体で、「市町村に一つ以上置くこと」と決められています。「社協も吹田市の出先機関の一つ」と考えておられる方も多いと思うのですが、社協は民間の社会福祉法人で、構成員は市民なのです。私個人は藤白台地域から選出された理事で、理事の中から互選で選ばれて、会長に就任しております。
社協というと「あの赤い羽根募金を集めてる団体ね」というくらいの認識かもしれません。しかし実際には吹田市内に33もの地区福祉委員会があり、そこでは「小地域ネットワーク事業」として、高齢者への昼食会や子育てサロン、子どもと高齢者が昔遊びや給食交流会を通じてふれあう世代間交流、障がい者交流など、様々な活動を続けています。
有田7月にJR吹田駅前で開催された「平和の塔祈念献花式典」でも立川さんは実行委員長を務められましたし、ボランティアフェスティバルでも社協は事務局で奮闘されてますね。
立川昨年度で見ますと、社協が関わる事業に参加された吹田市民はのべで約72000人、地区福祉委員としてボランティアに参加された方はのべで約16000人。吹田市の人口が約35万人ですから、およそ4人に1人が社協と何らかの関わりを持っていただいています。
経済を支えてきた高齢者 冷たすぎるのでは…
有田大変大きな数字ですね。やはり高齢化社会を迎えて、それだけニーズが増えているのでしょう。緊急の課題として介護の問題がありますね。後期高齢者医療という「年寄り差別」のような医療制度でお年寄りの負担が増える。さらには介護保険の根本的な問題、つまり「福祉を保険にしていいのか?」。保険料の負担はばかになりませんし、利用料もアップしていく。これまで一生懸命働いて日本経済を支えてきた高齢者に、冷たすぎるのではないか、と感じます。さらには年老いた妻が夫を介護するといったような「老・老介護」も深刻な問題を投げかけています。
立川 浩次さん
市民5人に1人が社協と関係
ニュータウンは 高齢化が進んだ地域
立川吹田市は他市に比べるとまだ高齢化していないのですが、私の住んでいる藤白台などニュータウンは例外でして、高齢化が進んだ地域です。昨年度吹田市全体の高齢化率は18・6%だったのですが、ニュータウンに限れば23・6%。それが17年には34%になると予想されています。JR吹田駅周辺の「旧吹田地域」とニュータウンの高齢化が顕著です。特に今、力を入れて取り組んでいるのは、「孤独死をなくそう」という事業です。実際に高齢者の孤独死は増えていて、中には死後20日も発見されなかった例もあります。
有田
そうですね。特に都市部では地域コミュニティーがうまく育たなかったり、プライバシー保護が進みすぎてどこに独居老人がいるかわからなかったり。そんな中で高齢者をどうやって地域で見守っていくかが、問われていますね。
立川
各地区の小地域ネットワークが主催する「ふれあい昼食会」に出てきてもらったり、「いきいきサロン」に参加される高齢者は、まだ安心です。少なくとも月一度は「安否確認」ができますから。問題は訪問しても「人の世話になりたくない」と、こうしたサービスを拒否される高齢者もおられるのです。支援活動から外れてしまう方々を見過ごしていいのか?高齢者をどこまで見守れるのかが、社協としても大きなテーマとなっています。
隔月に開かれている高齢者ふれあい昼食会「もくせい会」
市職員が戸口までゴミ収集 高齢者の安否確認
有田今は民生委員さんや福祉委員さんが独居老人を見守っておられますが、こういう分野こそ行政の役割も大きいと思います。府内6カ所に設置される健康・福祉センターや地域包括支援センター。市の直営で、専門職を配置している福祉センターですが、このセンターの役割は大きいと思います。また、ゴミ収集。独居老人や障がい者の方に、あらかじめ登録いただいてゴミを玄関まで取りに行く「ふれあい収集」。団地や自宅の階段の上り下りがきつい高齢者は、ゴミ出しや布団干しにもヘルパーを雇わねばならないという実態があります。そこで市役所職員が戸口までゴミを収集に行く。するとそこで安否確認もできますね。行政と地域が一体となって高齢者や障がい者を見守っていくことが必要ですね。
男性の参加が課題 地域ボランティアとして…
立川
それと「男性の参加」が課題です。地域福祉の現場は女性のボランティアで成り立っていると言っても過言ではない。今後、団塊の世代が退職されます。定年後は自宅にこもるのではなく、ぜひ地域ボランティアとして関わっていただければと願っています。
吹田市にお願いしたいのは、例えば「場所の整備」です。昼食会の会場は公民館や市民ホールが多いのですが、そこにエレベーターや移動式昇降機がない。一人で階段を上がれない方が多い高齢者を対象とした昼食会なのに、2階で行う、などということになっています。また子育て真っ最中のお母さん方を支援する子育てサロンにしても、自宅から市民ホールまで遠いので、気軽に来れない。ホールに駐車場があれば、もっと気軽に集えるようになると思います。
有田そうですね、高齢者や障がい者の支援の場が、バリアフリーでないのは問題ですね。また子育てサロンにしても、今は核家族化しておじいさん、おばあさんの子育て体験が生かされない。孤独死と同様、児童虐待も増えていますから、こうした地域の子育て支援事業に、気軽に参加できる体制作りも大事ですね。
こうした福祉・子育てにこそ、予算を使ってほしいと思うのですが、橋下大阪府知事は「財政再建だ」と、地域福祉予算もばっさり削ってしまいましたね。
立川
小地域ネットワーク活動には、一地区につき毎年50万円の補助金がありました。府が25万円、市が25万円で合計50万円でした。ところがこの大阪府の部分が他の事業と合わせて削減したうえで、交付金化され、やりたいところはやりなさいと変更されたのです。
有田
昼食会などに関わる予算ですよね。毎年50万円でも全然足らないと思うのですが。
立川そうです、全然足りません。それで募金や一口500円の地域ふくし協力金などを自治会ごとに募って、ぎりぎりまかなってきているというのが実態です。幸い、吹田市は大阪府のカット分を独自に補助したので全体の予算は変わりませんでした。しかし吹田市の負担が増えたので、これがいつまで続くか心配ですね。
無償でいいのかボランティア
有田
昼食会だけでなく様々な事業をされていますし、例えば本来なら福祉委員さんなどのボランティアも無償でいいのか、という問題もありますね。
立川
原則は全く無償でやってもらっています。研修会や会議などに参加する場合は交通費のみ支給している地区もありますが。例えば独居の方へ安否確認をしていますが、その電話代金はボランティアの方の持ち出しです。細かいことかもしれませんが、全くの無償では活動を継続するのが困難になりますね。今年度から市の方で施設の介護サポーターの「ポイント制」を始めていただきましたが。
有田
ボランティアの方々の善意で成り立っているのですね。ポイント制、地域通貨などの方法も含めて、ここでも行政の役割が問われていますね。そんな厳しい財政状況の中で、吹田市は市内を6カ所に分けて、地域の福祉や保健を全体として支援する「地域包括支援センター」を開設していますが、そこに社協の13名のCSW(コミュニティー・ソーシャルワーカー)も配置されているんですよね。
CSWは「地域の何でも相談員」
立川CSWって何?もっと簡単な名前はないの(笑)などと言われることもあります。まぁいってみれば「地域の何でも相談員」ですね。
具体的には、CSWは既存の制度・サービスをつなぎ合わせて複合的な福祉の問題を解決したり、市民と福祉・保健施設とを結ぶ役割を果たします。この分野では、吹田市は府下でもトップクラスを走ってまして、他市から視察がくるほどです。家族の介護をどうしよう、近所に心配な人がいる、外国人が病院へ通うには、などなど、地域の「小さなSOS」を気軽に発信していただくことで、CSWが適切なサービスを提供する行政機関などにつなぐわけです。いきなり市役所や保健所に行くには敷居が高いと感じられる方でも、居住する地域に相談員がいたら、相談しやすいのです。
有田
身近な地域に相談員がいて、近所の施設で相談に乗ってもらえる。このようなきめ細かい福祉サービスが求められているのですね。最後に今の社協が抱えている課題と、今後の展望を。
立川さらに市民に密着した福祉サービスを行おうと、藤白台地区では毎年65歳以上の独居の方、70歳以上の老夫婦の方々へアンケートを実施しています。見守り活動を希望しますか?という問いに対して、「お願いします」と応募された方でも、「しかし、近所の方は困ります」と回答される人がいます。つまり見守り活動をしてほしいけれど、近所の方にプライバシーをさらすのはいやだ、と。さらには明らかに孤独死の危険があるのに「応募しません」と回答される方々。昔は「向こう三軒両隣」と、近所で支え合ったものですが、今は地域になじんでおられない方々も多いようです。こうした孤立した人々をどうするのか、が課題の一つですね。ニュータウンでは公社や府営住宅の建て替えが進み、今までのコミュニティーがいったん崩壊して、「誰がどこに住んでいるのかわからない」状態になりつつあります。そんな中で地域から孤立した方々が心配です。
それと、社協では3ヶ月に一回「社協だより」を発行しているのですが、もっと広報に力を入れて、多くの市民に社協の活動を知ってもらうことから始めていきたいですね。
有田
地域で孤立している人をどう支援していくのか?非常に難しい問題ですね。ハッキリしているのは、行政だけでも、社協だけでも、民間の事業所だけでも、問題は解決できないということ。行政と市民と事業所が、日常的に連携し、力を合わせて共同していかねばならないと思います。地域福祉活動の発展と充実のためにできることから、一緒に始めたいですね。本日はありがとうございました。
「すいた社協だより」は3か月に1回発行しています
子育て支援事業「仲良しキッズクラブ」