馬垣 安芳さん
有田今回は、近日中に抜本的な見直しが予定されている、障害者自立「支援」法の問題を中心に、お二人にお越しいただきました。まずは自己紹介からお願いします。
馬垣障がい者が当たり前に生き働く社会を目指して、「障がい者がみんなと共に生き働く場・ぷくぷくの会」を創設し、事業展開を進める上で一部法人化を進めて、理事長をしています。障害者自立「支援」法との関係で言いますと、撤廃に向けてオール吹田の連合運動体である「吹田の障害者の福祉と医療を進める会」の二代目会長として、この法律の改正と吹田の施策の向上を目指して活動させてもらっています。
金沢私は現在吹田の「障害者を守る連絡協議会」の会長をしております。体調が思わしくなく名前だけのようになっています(笑)。それと週に一回「あいほうぷ」(吹田市立障害者支援交流センター)を利用するので、障害者自立「支援」法ができてから、利用料金を取られるようになりました。こんな制度アカンやん、と「自立支援法訴訟」の原告になっています。
有田今でこそ、吹田の障がい者運動の要職をこなされておられるお二人ですが、そもそもこの運動に飛び込んだキッカケというのは…
障がい者福祉に関心
そよ風のように街に出よう
馬垣30年前にふとしたことで障がい者との出会いがあり、障がい者問題を取り扱った「そよ風のように街に出よう」という季刊雑誌の編集に関わりはじめました。当時、取材に訪れた多くの施設では、6〜8人部屋で男女の別なく扱われ、何十年も施設から出たことがないような本当に多くの厳しい現状があり愕然としました。少し省きますが、地元の福祉先進の吹田で共に生き働く場を目指して、障がい者4人、健常者3人で全くゼロから作業所(無認可共同作業所・日中活動の場)を始めたんです。
そんな中、「障がい者が社会へ出て行きやすいように」と、障がい者自身やその家族が、行政に働きかけたり、世論に訴えていく中で、ガイドヘルパーや支援費制度など、福祉施策が充実してきました。
せっかく施策を充実させてきたのに、ここ数年逆の力が働いたのか、障害者自立「支援」法、「自立支援」とは名ばかりの法に変わりました。こんな障がい者いじめの悪法は絶対に許されないと、吹田市内の障がい者福祉に関わる団体・個人が一つにまとまって、撤廃運動を進めています。
2009年10月30日、東京大行動に6300人集まった
国が障がい者を差別
国を変えないとアカン
金沢 もともと脳性麻痺という障がいを持って生まれてきました。症状は軽い方だったので、小・中学校は普通学校に通いました。しかし高校進学にあたって、障がいを理由に地域の公立高校を落とされてしまい、私立高校へ。その時自分に障がいがあることで、将来への不安を感じました。
高校卒業後、大学を選ぶときも「理系・技術系は無理。文系やったら入れてあげる」と言われました。大学に行ってもその先が見えない。国、神戸市や兵庫県の公務員試験も受けましたが、ことごとく落とされます、クレペリン検査で。「これでは仕事も見つからないのでは?」という不安から和文タイプを習い、タイピストになりました。でも障がいがあるので、みんなと同じスピードで文字が打てません。落ち込んで悩んで、ノイローゼになりました。
その後、大阪大学医学部や付属病院で3年間アルバイト、そこで官公庁や大きな企業こそ障がい者の働ける職場がたくさんあることを知りました。そんな時、「アメリカには脳性麻痺の医学博士がいる」というニュースを聞きました。
それまでは「自分の障がいのために失敗したんや」と思っていたけど、そうじゃない。「国が障がい者を差別してきたんや」と感じたのです。障がい者が普通に暮らせるためには、国のあり方を変えないとアカン、と思いました。
それで「兵庫県障害者連絡協議会」という運動団体の専従職員になりました。
兵庫県で専従職員を長く勤めてきたのですが、2次障害が出て重度になってきたので、仕事を辞めて吹田へ。そして吹田の「障害者を守る連絡協議会」に入って、障がい者の福祉向上を目指した運動と、仲間作りをしています。結婚する勇気もなかったので、一人で暮らしてきました。しかし年を重ね、だんだん一人暮らしも不安になってきたところに障がい者生活介護施設「あいほうぷ」ができたので開所当初から利用させていただいています。
こんな制度アカンやんと「支援」法廃止の原告に…
金沢 子さん
利用料を取られる介護保険は「差別」や
有田金沢さんは「障害者自立支援法裁判」の原告ですね。なぜこの裁判を闘うことになったのですか?
金沢もともと介護保険が始まったときから、「こんな保険は差別や」と思っていたのです。保険料をかけている人しか介護されない。障害者手帳を持っていても、利用料を取られる。
そんな疑問を感じていたところに、障害者自立「支援」法でしょ?今まで無料だったものが、どんどんお金を取られていく制度にかわってきた。
ノーマライゼーションに反するやないか、と怒っていたところに「原告にならへんか」というお誘い。断る理由はないので引き受けました。
政権が交代し「法律は廃止」 和解の方向に
有田
提訴してから政権が交代しました。長妻厚生労働大臣も「この法律は廃止する」と表明し、裁判は和解の方向ですね。
金沢正直、こんなに早く解決するとは思っていませんでした。今の民主党に幻滅を感じてきてはいますが(笑)、国民の力で勝ち取った政権交代の成果と思っています。
馬垣
大きな転機となったのは、毎年ねばり強く取り組まれた全国大行動でしょう。法案の段階から抗議が始まり、障害者自立支援法の見直し・撤廃を求める10月全国大集会・大行動が毎年続けられてきました。全国から障がい当事者や家族、支援者、関連団体が数千人規模で集まって、国会・政府・厚生労働省に対してNO!と言った。確かに政権交代は大きな理由ですが、こうした障がい当事者を中心とする国民の大きな抗議行動が、政府を突き動かしたと思っています。
また、この運動は「オールジャパン」で展開しました。障がい者運動って、今までいろいろな理由で分かれていたのですが、一致点で大同団結しよう、という動きが高まり、厚生労働省の前に詰めかけた。吹田からもたくさん参加しましたよ。
有田
馬垣さんたちを中心として、ぷくぷくの会やさつき福祉会、のぞみ福祉会など、吹田でも多くの障がい者団体が、この問題で一つにまとまって闘われましたね。今回、そんな統一した闘いにつながった原動力って何ですか?
馬垣大阪府政が変わり、「財政難」が声高に叫ばれるようになりました。吹田市政も少しずつ予算縮減の方向に進んでいるようです。
そんな中で市民の声が届きにくくなり、福祉が切り捨てられていく傾向が出てきています。障がい者にとっては「ちょっとずつ首を絞められているような」状況でした。このままでは障がい者も家族も施設職員も干上がってしまう、という危機感があったからでしょう。
今まで「福祉の吹田」と呼ばれたが…
有田 八郎さん
障がい者への福祉
他市なみに後退が心配
有田
吹田市は今まで「福祉の吹田」と呼ばれるほど、他市に先駆けて制度を充実させてきたのですが、ここへ来て現市長が「ゼロクリア大作戦」を言い出しました。昭和の時代、20年前に作った制度を、いったんすべて廃止してゼロから見直す、というものです。障がい者への福祉施策が、他市なみに後退しないか心配です。
馬垣
障がい者の今以上の社会参加が求められている時代に、なんでそんなことを言うのかな、と疑問を感じます。例えば吹田市独自の補助金は、さつき共同作業所やぷくぷくの会など、障がい当事者や家族、関係者が粘り強く行政に働きかけて、運動で勝ち取ったものです。「20年続いたから」と単純に廃止するのは乱暴です。むしろ逆に「必要だからこそ20年続いてきた」のです。吹田は全国でも有数の財政健全都市でしょ?何で今、急に?と怒っています。
裁判での「勝利和解」を前に、報告する金沢さん
大型開発推進で福祉は削減?
クリアする順番が違う
有田弱い立場の障がい者や高齢者、子どもへの施策を見直す一方で、吹田のあちこちで大型開発を行って多額の税金を投入しようとしている、駅前再開発はどうなのか?万博にガンバ球場を誘致しようとしたり、ワールドカップに名乗りを上げたり、吹田操車場の跡地開発に莫大な資金を注入したりしています。
「クリアする順番が違う」と思いますね。
馬垣
今のままなら「理念なき改革」です。障がい者も健常者も当たり前に暮らせるまちづくりが必要なのに、時代に逆行してどうする?と思いますね。
市長は、「安心・安全のまちづくり」を掲げていますが必要な予算を一方的に削られたら、全然安心できません。
有田吹田の市民団体が「ストップゼロクリア市民連絡会」をつくり、この「ゼロクリア大作戦」は福祉切り捨て作戦だと、見直しを求める運動を進めています。障害者自立「支援」法が廃止されるのはいいことですが、肝心の地元が政権交代の流れに逆行するようなことでは困りますね。最後に、読者のみなさんにメッセージをどうぞ。
「福祉の原点」にたちもどってほしい
金沢
今の鳩山政権、大丈夫かなと不安を感じながらも、障がいを持つ当事者が入ったなかで、「自立支援」法に代わる新しい法律が準備されています。介護保険でもそうですが、根本問題は「契約」なのです。私たち利用者はいろんな制度がある中で民間業者と「契約」して、利用する。契約できるお金のある人はいいけど、ない人はどうなるの?という疑問は解決していません。
高齢者や障がい者を地域で支援する態勢を作らねばなりません。そのためには民間業者ではなく、行政が核になるべきです。
福祉サービスが後退したことと、不況などで孤独死も増えています。「応益負担」があるので、医療にかかれない人も増えているのです。吹田市も大阪府も、もう一度「福祉の原点」に立ち戻ってほしいと思います。
高齢化が進みバリアフリー求められるのに
馬垣
外国で、教会の様々な慈善事業を見かけます。礼拝では、障がい者が聖歌の伴奏をしてそこで収入を得られるようになっていたり、ホームレスの人々に炊き出しをしたりという場面に出会うたびに、平等に愛を受けられるまちというイメージがわいてきます。
逆に日本の神社仏閣は、山の上にあったり急な階段を上らないとたどり着けないところにある場合が多いです。つまり元気な人、努力できる人や、お供えをたくさんした人たちが、「福徳」を授かるというイメージ。もしかしたら日本人の中に、そんなDNAがあるのかな?30年近く障がい者運動をやっていると、ふとそんなことを感じてしまいます。
そんな日本にあって、障がい者福祉は、総合行政と位置づけて、行政全体で、責任を持って充実させるべきです。
例えば公営住宅にしても、高齢化が進みバリアフリーが求められているのに、いまだにエレベーターがないところが多い。粗っぽい提案ですが、30年前に「団地やマンションでは最低10〜20%はエレベーター設置部分を設けなければならない」などという条例を作っていれば、公営住宅はいまでも立派に機能していたはず。実は私たちがずっと前から求めてきたことなんです。でも行政は聞くだけ。
例えば阪急吹田駅がようやくバリアフリーになりますが、大変遅い対応だと言わざるを得ない。行政の担当者はその都度、人事異動で代わられるし、私たちの声や要望を引き継いでいただいているとも思えない。
「市民参画」と言われるのなら、こうした声を真摯に受け止めて市政に反映してほしいと思います。
市民生活の現場で困っている人々の声を
有田
本当にそうですね。大阪府も吹田市も、口を開けば「予算がない」。でも障がい者や子育てなどの予算を一方的に削ることは、人権問題です。机の上で予算書をいじくっているのではなく、市民生活の現場へ出て、もっと困っている人々の声を拾っていくことから始めないとダメでしょうね。
本日はどうもありがとうございました。