丹羽野 本日はお忙しいところ、吹田市で高齢者福祉の現場で奮闘されているお二人に来ていただきました。先日千里ニュータウンの藤白台で、一人暮らしの高齢者が殺害されるという痛ましい事件があり、あらためて「高齢者を見守る地域の力」というものが問われている時代なんだなぁと感じました。まずはお二人から施設設置の経過や普段の仕事の内容などを。
三木 NPO法人「ライフサポートりぼん」の代表理事をしております。「りぼん」は山田地域に拠点を置き、山田東でディサービス、山田西では高齢者の訪問介護サービス、障害者への居宅サービス・ガイドサービスなどを行っています。「りぼん」の前身は地域の中で困っている方、助けを必要としている方を支援するボランティアグループでした。
1998年「私たちもいずれ歳をとる。自分たちが安心して暮らせる街作りを目指して、地域で何か手助けができたら」と仲間数人でグループを作りました。まず、民生委員さんの紹介で「あそこのおばあちゃん、一人でベッドに寝たきりや。家族の人が帰って来られるまで、誰か面倒見てくれる?」という話が来ました。メンバー自身がみな子育て中なので、午後5時から11時までの間一人2時間ずつ交代しながら入りました。すると口コミで噂が広がって「ウチにも来て」「私のウチも」(笑)と、次々と依頼が…
2000年、介護保険制度がスタートしたときに、NPO法人となり、事業所として活動をスタートさせました。
丹羽野 事業所を立ち上げる時、そして運営を軌道に乗せていく時はいろいろと苦労されたでしょうね。
三木 素人の集団なので「法人格を取らないといけない」「事務所を構えないとダメ」などと言われても、どうしたらいいか分かりません。吹田市内で先行して高齢者サービスを行っている方々や「さわやか福祉財団」などにノウハウを教えてもらいながらのスタートでした。
最初は、デイサービスのお迎えが来るまでの見守りでした。朝8時に出勤されるご家族が、お年寄りを連れて来られる。駅の下の喫茶店で9時まで待って「市民ホール」に移動し、送迎車が来るまで見守りをする。(これが今の「デイハウスりぼん」の始まりです)
認知症の高齢者もおられて、大声で「どこに連れて行くのや!」と叫ばれ、通勤客から不審がられあたふたする事もありました。当時は認知症の方への接し方もよく分からなかったのです。それでみんなで2級ヘルパー資格を取りました。よくここまで続けて来れたなぁと思います。今も利用者様の要望と介護保険制度の狭間で悩むことがいっぱいです。
益田 特別養護老人ホーム「いのこの里」で生活相談員をしています。2000年から介護保険制度が始まって10年、特別養護老人ホーム(以下特養と略)とグループホーム、デイサービス、ショートステイなど幅広く事業を展開しています。
「いのこの里」は「誰もが入りたくなる特養を」という市民運動から始まりました。地域に開かれた施設として高齢者の介護に取り組んできましたが、国が介護保険制度を「改正」するたびに運営費が切り詰められ、サービスの維持が困難になっています。予算が削減されていく中で、どうすれば高齢者の生活が守れるのか、職員もギリギリの状況で仕事をしています。
丹羽野 介護保険制度は、まだまだ充実させなければならないのに、3年ごとに見直される、矛盾も広がっていると聞いています。
益田 例えば介護保険制度が始まって、障害者は65歳以上になると1割の利用料を支払わなねばならなくなりました。車椅子も以前は支給されていたのがレンタルとなり、お金を払わねばなりません。
丹羽野 高齢者や障害者を支援するために始まった介護保険制度が、逆にサービスを受けづらくさせている側面があるのですね。
益田 それに「国の基準」が現場の状況を反映していません。特養では高齢者3人に職員1人、という3対1の配置基準です。しかし24時間、365日の介護ですから、どのように職員のローテーションを組んでも3対1では回らない。よく報道されていますが、夜間は1人の職員が20数人の高齢者を見守るという態勢になってしまいます。「いのこの里」では、1.7対1にまで持ってきていますが、その分の人件費は施設の持ち出しです。
三木 「りぼん」でもヘルパー不足が大きな問題です。介護保険が始まった頃は「これからは介護だ!」と、多くの若者たちが介護ヘルパーの資格を取りにいったし、専門学校もたくさんできました。しかし介護福祉の現場がきつい労働で低賃金だということが明らかになった今、専門学校も定数割れしている状態です。
「りぼん」に実習に来られる方々も「就職あるやろか?」と不安がっておられます。私たちは小さな事業所なので常勤職員を多く雇うわけにはいかず、アルバイトで対応するわけで、その意味でも「非正規雇用者」に頼らざるを得ない。経験を積んでいただいても早期に退職されますので、人材の確保に苦労しています。
益田 この業界は「男性の寿退社」(笑)があるのです。男性介護職員が「結婚したらこの賃金では家族を養えない。夢を持って仕事をしたいが、食べられないので転職する」わけです。
三木 国の制度「改正」で、院内での待ち時間等が認められなくなりました。具体的には利用者様の通院でヘルパーが同行した時、待ち時間がありますね。利用者様が一人では不安なので、ずっと一緒に付き添っているのですが、その時間は制度では認めてもらえないのです。かといってこの分を自費分として利用者様に請求しにくい。ただでさえ少ない年金から利用料を支払っていて、「お金ないのでヘルパー利用を週一回で我慢するわ」などの声を聞いてますので…
丹羽野 そのような「貧困な高齢者福祉政策」の中で、居宅訪問や相談活動をされているわけですが、そんな「お年寄りを巡る状況」はどうでしょうか?
三木 藤白台の事件があって、近所の独居老人の方が一ヶ月くらい恐怖で眠れなくなっておられました。ですので「毎日誰かと会う」「誰かが語りかける」プランを作って精神的なケアをしました。しかし私たち事業所だけでは対応に限界があります。地域の方々が高齢者を見守る状況を作り出して、地域の力と私たちのような介護事業所とで連携を取らないと対応できません。
丹羽野 確かに最近は「隣は何をする人ぞ」という風潮が強くて、昔のようにきめ細かなネットワークがあるわけではないですからね。「安心して住み続けられる街づくり」のためには自治体と地域、介護事業所などが連携する必要がありますね。
益田 吹田市もご多分に漏れず高齢化率が上がっています。世間では高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の問題が報道されますが、さらに事態は進んでいて、認知症の方同士で介護し合っている、「認認介護」まであるのです。
「2人がどこかへ徘徊した」「一方が出ていったが、パートナーは関知していない」など、探し回ることもしばしばです。こんなときに「地域の目」があれば、非常に助かります。早期発見すれば、後が楽です。向こう三軒両隣、団地の同じ階段の方々や、近所のお店などに前もって声をかけておいて何かあったら連絡してもらうような態勢も必要です。
三木 ただ最近は個人情報管理、プライバシーの保護などが叫ばれますので、どこまで踏み込むか、難しい選択を迫られています。
丹羽野 吹田市ではゴミ収集のときに、高齢者の安否確認をかねて週に一回、「自宅を訪問して回収する」という「ふれあい回収」を始めました。しかしこの「ふれあい回収」は、事前に申請が必要で、認知症や寝たきりの方など「本当に必要な方」のところに届かない可能性があります。
益田 独居老人でもデイサービスなどに来る人はまだマシです。問題は「お上の世話になってはいけない」とサービスを拒絶する人、制度そのものを知らない人、お金がなくて断る人などにどう対処していくか、です。
丹羽野 問題が山積していることがよくわかりました。最後に吹田市や大阪府、国に対する要望などを。
三木 吹田市報の11月号に「有償ボランティアを考える」というタイトルで新しい活動の案内を出したら、問い合わせが結構ありました。「地域で困っている人のために何かやりたい」と考えてる市民が結構多いのだと思いました。かつての私たちのようなボランティアをする人が増えてこそ、地域と福祉事業所のネットワークが充実します。吹田市に要望したいのは、そのような市民ボランティアに補助金を出して、市民活動を支えていく仕組みを作ってほしいということです。
益田 特養には現在、42万人を超える方が待機しておられます。国は「できるだけ在宅で介護を」という方針ですが、在宅では無理だとおっしゃる家族が増えているのです。それと利用者が年々重症化しています。胃に穴を空けてそこから栄養補充を食事しないといけない方や、たんの吸引が必要な方など。つまり医療的なケアが必要なのに、介護職も看護職も不足しています。政府はこの間、介護保険制度を見直すたびに、介護報酬を削減してきました。予算が削られる中で現場では最大限に工夫して乗り切っていましたが、それも限界に近づいています。財源がないと切り捨てるのではなく、今一度高齢者福祉の原点に戻って、誰もが安心して老いていけるような社会づくりを求めたいです。
丹羽野 老老介護や老人虐待など、高齢者の危機的状況が報道されていますが、そんな中にあって、粘り強く地域福祉を守ってこられた活動に敬意を表したいと思います。そんな高齢者福祉の第一線で働く方へ、国や自治体がもっと支援すべきだと感じています。大阪府も吹田市も大規模開発に多額の税金を使っています。そんなお金を、困っている人々のために回すことが必要ですね。今日は現場からの貴重な報告、ありがとうございました。