丹羽野 本日は社会福祉法人こばと会の理事として、とりわけ高齢者福祉の最前線で活躍されている正森かつやさんをゲストにお迎えしました。現場で日々、感じられていることもあるのではないでしょうか。
正森 社会福祉の現場で約20年働いてきました。大学で社会福祉を学び、尼崎の特別養護老人ホーム「喜楽苑」を皮切りに、9年前から山田にある「いのこの里」で勤務してきました。福祉の現場にいて、特に感じてきたのは、この間「行政が公的な責任を果たしてこなかった」ということ。
介護保険ができて11年。特養の待機者は解消されるどころか、増え続け、吹田でも700人いらっしゃいます。私は「いのこの里」の仕事を通じて皆さんの切実な声を聞いてきました。「自己責任」という名の下に、補助金をカットし、弱い立場の高齢者をさらに追い込む「冷たい政治」ですね。「予算がない」と、国や大阪府が高齢者や子どもたち、障害者などの福祉をバッサリと切り捨てようとしている今こそ、吹田市が市民生活を守る防波堤にならねばならない、そんな危機感から、「吹田市を変えたい」と、思いがいっぱいです。
丹羽野 「福祉最優先の自治体をめざそう」とおっしゃっていますね。具体的には、どんな吹田市が求められていると考えていますか?
正森 一番の願いは、「ホンマもんの福祉」を実現させたいということ。今の市長はよく、「自助、互助、公助」と言われます。でもそれは、自治体が必要な福祉施策を行うことが前提です。憲法25条には「誰もが最低限の生活を営む」権利があるといわれているのに、この間の格差拡大、貧困な子育て政策、お年寄りいじめの後期高齢者医療制度など、「福祉切り捨て」政治の中で、国民生活が痛めつけられてきました。そんな中で、最も身近な自治体である吹田市までが、「自助、互助、公助」と言いつつ、福祉予算をカットしたら市民は路頭に迷いますよ。自治体には「住民福祉の増進をはかる」という役割があります。ゼロクリアといって、吹田市が長年積み上げてきた福祉施策を見直そうとしている現市長は、結果として「自助と言う名の予算カット」を押し付けようというものです。
丹羽野 そうですね。住民にとって一番身近な吹田市が、踏ん張って福祉施策を後退させないようにしなければいけませんね。しかし一方で「財源はどうするんだ!」という声もありますよ。
正森 そこなんですよ、現市政は一言で言えば「開発優先」で、「福祉・くらし切り捨て」路線です。例えば「東部拠点開発」。今の市長は1100億円規模のよびこみ型開発を行おうとして失敗。手づまり状態のまま4年が過ぎました。大企業呼び込み型の失敗例は大阪府民は痛いほど知ってますよ。りんくうタウン、WTC、箕面森町…。ことごとく失敗して大赤字。その結果として「予算がない」と補助金カット。
私は東部拠点開発を見直して、お金の使い方も見直したい。もっと市民に身近な保育所の充実や、老人ホームの整備、地域包括センターの設置など、「ホンマもんの福祉」にチェンジさせたい。いわば「身の丈にあった」吹田市らしい、福祉のまちづくりです。
丹羽野 正森さんはこの間いろいろな地域の方々と対話されていますが。
正森 驚いたのは商工関係の分野です。かつては官公需の工事が70%ほどあった吹田市の業者さんたち。今では30%以下に激減して、不況に直面されている中で「このままでは地域経済はどうなるのか」という危機感を持ちました。たとえば、保育所や高齢者施設の建設、学校の改修工事などは地元業者に発注し、物品の発注も地元業者優先に、そんな施策が必要です。
まちづくりでは、毎日放送跡地の開発。千里丘の緑を切り開き、巨大な宅地とマンションに変貌しつつあります。あるいはニュータウンや千里山の公団、公社の建て替えによって、まちの外観が大きく変化しています。
吹田市はこれまで「民・民の問題」と傍観してきたようですが、地域住民の中に相当な不満としこりを残してしまった。
毎日放送跡地開発では、小学校を1つ作らないといけないくらいの大規模開発ですから、業者任せにするのではなく、吹田市が主体性を発揮して、まちづくりのビジョンを示すべきだったと思いますね。
丹羽野 皮肉なことに「東部拠点」も「ニュータウンの再生」も、今の市長の目玉政策です。市長は大規模開発でバラ色の町を描きたいようですが、例えば、ニュータウンの賃貸住宅の建て替えでは、約60%の住民しか元の住区に戻ってこない。建て替わった住宅が、家賃は高くなり、コミュニティもバラバラになるのですから。もっと住民目線で吹田市がコーディネーターの役割をするべきだったと思います。
地域を回られて、市民からの要望などが出てきましたか?
正森 子育て中のお母さんから、「保育所に入れないので、働くことができない」という切実な声を聞きました。この不況の中で、働かざるを得ない母親が増えています。もし待機児問題が解決すれば、「2人目も生もうかな」ということに。そうすれば少子高齢化問題も解決に向かうし、まちの活性化にもつながっていきますね。
それとさっきおっしゃった家賃の問題。年金暮らしの高齢者にとって家賃の引き上げは死活問題です。さらに障がい者を抱える家族の問題。「私が死んだ後、この子を誰が…。それを考えると不安で眠れない」などの切実な声を聞きました。
これらは社会福祉の事業として、行政が何らかの形でサポートしていかねばならない問題ですね。
丹羽野 住民の願いや要望の中から政策を発展させることが大事です。今、維新の会や財界は「大阪都」「ワン大阪」「道州制」など、行政の広域化を訴えていますね。
正森 橋下知事の狙いは、関西財界といっしょになって、大阪市だけでなく、吹田や豊中なども大阪都にまきこみ、税金を吸い上げて湾岸開発につぎこもう、というものです。
橋下知事は、大阪都によって、福祉や教育を「特別区」におしつけようとしていますが、大阪府のくらし・福祉の後退はすでにはじまっています。千里救命救急センターの3億5千万円の補助金カットも、小学校の警備員交付金カットもそのあらわれです。また「国民健康保険の統一化・広域化」も市民のくらしに大打撃をあたえます。吹田市では5万世帯が影響を受け、広域化されれば一世帯あたり年間2万円の保険料が引き上げられます。一般会計からの繰り入れで保険料を押さえてきたり、吹田市独自の減免制度など、市民本位で進めてきた国保が、広域化によって大打撃を受けるのです。現市長は「仕方がない。」と、知事と一緒に広域化を表明しています。いったい「どっち向いて仕事してるのか!」と怒りたくなりますね。
丹羽野 「広域化という名の平準化」が進んでしまいます。吹田市が独自の努力で福祉や子育て予算を確保し、「子育てするなら吹田」「福祉の吹田」と言われてきたのに、知事は大阪都、今の市長は関西州を唱えて、吹田市の独自性を捨て去ろうとしています。
今、「公務員の人件費を削る」という主張が受けていますが。
正森 調べてみると吹田市の人件費は、この10年で259億円カットされていますね。非正規の職員もずいぶん増えています。見直すべきは他にもあるのではないでしょうか。例えば東部拠点開発で、当初30億円だった基盤整備予算が、60億円にふくれあがった。吹田市は、他にも大きなプロジェクトを抱えています。阪急電車でいうと山田、南千里、千里山の各駅前開発を同時並行しています。そんな市は他にはありませんよ。これが一番大きな出費。まちづくりの優先順位をつけて市民の意見を十分に聞いた、くらし向上に役立つまちづくりが大事です。
人件費で言いますと、福祉、教育、医療などの現場は、マンパワーが決定的に大事です。現場の人員を削ると、その分、市民サービスが低下します。
一方、今の市長は理事や総括惨事など、役付け職員を大幅に増やしています。むしろ、現場の職員を手厚く配備するべきで、やっていることが逆ですね。「公務員の人件費を削る」、というのはウケがいいですが、問題は中身です。市民サービスを低下させてはいけません。私たちの願いはどこにあるのか?本当に無駄な予算は何なのか?ごまかされずに、しっかりと判断してほしいと思います。
丹羽野 保育所や市民病院など、人と人とが接する職場がたくさんあります。中身のある行政サービスを維持するためには、現場には一定の人員が必要です。人員を削って、民間委託すれば、きっと住民にしわ寄せがやってくるでしょう。
正森 私自身、社会福祉法人の経営者でしたから、予算と人員配置には苦労しました。老人ホームにおける国の基準は、高齢者3人に職員1人。しかしこれでは利用者やご家族のニーズに応えることができません。それで「いのこの里」では、高齢者1.7人に職員1人と、過配しました。「お金が…」という前に、「これだけはやらねば…」という発想です。
これは市長も同じです。「職員をバッサリ減らす」と宣言して、その職員のトップに立つ。これでは職員の士気も下がるし、市民サービスにも悪影響が出る。まずは限られた予算の中であっても、努力し、職員のやる気を引き出し、サービスは決して低下させない。そんな苦労が必要ではないでしょうか。
丹羽野 「福祉最優先の吹田」への熱い思いが伝わってきました。正森さんが、社会福祉に身を投じてみようと考えたキッカケは何だったのですか?
正森 高校生の時、憲法や社会福祉法の精神に触れ、社会福祉の大切さを学びました。福祉の現場は、人と人が向き合う中で、やりがいのある仕事ではないかとも考えていました。大学に入り、友人たちと夢や希望、生き甲斐について語り合う中で、福祉現場で働こうという気持ちを固めていきました。今もその夢に向かっているところです(笑)。
丹羽野 社会的に弱い立場の人々と一緒に悩み、過ごしてきた経験があるからこそ、市民目線で吹田市を語れるのだと思います。最後に一言お願いします。
正森 「福祉の吹田」、「子育てするなら吹田」、というのは、榎原、岸田市長の時代に、住民と行政とが一緒になってつくりあげてきたものです。現市長の12年間で、その福祉予算が削られようとしたときも、住民パワーではね返してきました。そんなみなさんの力をお借りして、閉塞感ある時代だからこそ、本当の住民自治を、吹田から再生させることが必要だと思います。
丹羽野 大阪都など、イメージ先行で「器だけ」の議論が進んでいますが、本当に議論しなければいけないのは、そこに住んでいる人々がどうすれば大事にされ、幸せになれるか、ですね。ホンマもんの福祉の街をめざしてがんばりましょう。本日はありがとうございました。