出席者
さつき福祉会後援会長・山田 豊さん
吹田市民病院小児科病棟看護師・山本 恵子さん
吹田市職員労働組合執行委員長・丹羽野 和夫さん
吹田市が突然市民病院の「独立行政法人化」を発表
丹羽野 本日のテーマは、吹田市民病院の独立行政法人化問題です。昭和28年、吹田市出口町で開設された市民病院は、その後、昭和57年に片山町に移転して現在に至っています。最新医療を駆使した民間病院は人気がありますが、その分お金がかかる所が多いです。市民病院は、公立の病院として「平等、安心、安全の医療サービス」を提供してきました。
そんな地域に愛されてきた市民病院を、吹田市は突然、「直営方式をやめて独立行政法人にしたい」と発表しました。
独立行政法人というと、何か大変難しく聞こえますが、要は「吹田市が病院経営から距離を置く」ということ。発表後、患者さん、地域住民、職員には不安と動揺が広がっています。
そこで今回は患者家族代表として山田豊さん、職員代表として山本恵子さんにお越しいただいています。まずはお二人から自己紹介を。
山田 吹田市の障害者が働く場として、「さつき障害者作業所」がありますが、私はその後援会長をしております。長男が重度の障害者で、私たち夫婦も高齢になって、市民病院には家族ぐるみでお世話になっているんです。独立行政法人化されると、「今まで受けていたサービスが削られていくのでは?」と、大変不安に感じています。
山本 市民病院の小児科病棟で看護師をしています。私たち職員にとっても寝耳に水の話でした。病院の仕事は激務の上に24時間態勢でしょう。今でも看護師、医師は慢性的な人員不足なのに、独立行政法人化されると、「利潤第一」になって、儲からない部門の医療がバッサリ削られていかないか、と心配ですね。
障害者作業所と市民病院はなくてはならない存在です
丹羽野 山田さんは西ノ庄にお住まいだとか。今でこそさつき福祉会の後援会長として、福祉や医療問題などでご活躍ですが、仕事をしながらの子育ては大変だったでしょう?
山田 昭和44年、息子が生まれた時に、へその緒が首に巻き付いてしまって、酸欠状態になったんですね、それで、歩けないし、「てんかん」を持つようになりました。
八尾市に住んでいたのですが、無理をお願いして普通の小学校に入学させました。でも私が転勤族で、東京へ。知らない土地で普通校に入ることはできないと思い、養護学校を探して、養護学校のそばに自宅を構えました。息子が養護学校の高等部に進む時に、名古屋へ転勤になりました。当時愛知県では養護学校が7つしかなく、定員が一杯で結果として息子は入れませんでした。
丹羽野 では、奥さんがずっと自宅で?
山田 そうです。妻が毎日、24時間面倒を見ていました。住んでたのが名古屋郊外の小さな町だったので、町役場に行って、「この町には、障害者の行く場所がない。どこかに障害者と家族が集える場所を作ってほしい」と陳情したんです。
言うて見るもんですね。役場の空き部屋を貸してくれて、同じような悩みを抱えている親子7〜8組が集まって、交流をはじめました。この時に「悩んでいたのはうちだけやなかった。障害者が集まれる場所が必要や」と感じたんです。
丹羽野 作業所のような場所が、当時はまったく不足していたのですね。
山田 そうです。そんな時、妻の実家、つまりこの吹田市で「第二さつき障害者作業所が、もうすぐできる」という話を聞きつけて、それならぜひ入れたい、と。妻と子どもだけ、先に吹田に帰らせて、何とか入れてもらいました。
丹羽野 当時から吹田は「福祉の町」として有名で、障害者の作業所も全国に先駆けて補助していましたからね。一口に障害者福祉といっても、家族にとっては苦労の連続でしょう。作業所と市民病院はなくてはならないものですね。
さて、市民病院の職場ではどんな反応ですか?
ゆとりがない、休めないが医療現場の実態です
山本 いよいよ来るべきものが来たな、と思いました。といいますのは、小泉改革の時代から、国は「赤字の公立病院は経営形態を変更せよ」と、指針を出していたのです。全国の公立病院は、「赤字をなくして黒字に」という競争状態でした。吹田市民病院も平成19年から経営責任者を置いて、その下に病院長がいる、という組織に変わりました。それから5年、直営を守るため労使ともに努力して黒字化してきたのです。
丹羽野 その努力が実って、単年度は黒字になっていたのですね?
山本 そうです、ここ2年は黒字です。でも現場でどれほど努力しても、病院って「診療報酬の上げ下げ」で、赤字にも黒字にもなるのです。診療報酬は国が改訂するのですが、わずか1%上下するだけで、市民病院なら1~2億円規模で収支が動いてしまいます。なので病院を生かすも殺すも国次第なのですが、その中にあっても、ベッドコントロールなどを行って、収益が上がるように努力してきました。
丹羽野 ベッドコントロールとは何ですか?
山本 どんな入院患者さんも受け入れて、治癒したら早期に帰宅していただき、ベッドを常に満床状態にしておくのです。仕事はきつくなりますが、直営を守るために努力してきました。
丹羽野 黒字なら独立行政法人化、つまり民営化する必要はないと思うのですが。
山本 私もそう思います。いわば「理由なき民営化」です。
丹羽野 大阪市営地下鉄も黒字なのに民営化されそうですね。いわゆる「維新ブーム」の流れで、背景にあるのは「公務員の人件費を減らせ」という圧力でしょうね。
山本 市民病院を独立行政法人化させると、約450人の医師や看護師、技師たちが公務員でなくなります。吹田市はとにかく「公務員の数を減らしたい」のです。しかし私たちは夜勤を含む24時間態勢、慢性的な人員不足です。医療サービスを守るためには、さらに看護師を増やしてほしい、と要望しています。今でも「ゆとりがない、休めない、ハードな仕事」を余儀なくされ、同僚たちは「もう仕事、続けられへん。やめたい」という人も多いのです。ですから、看護師を確保するためには、「ここなら働き続けられる」と、労働条件を整備することです。逆に独立行政法人化、つまり「非公務員化」されれば、これを機会にベテラン看護師、医師がいなくなってしまうかもしれません。
赤字なら、不採算医療が切り捨てに
丹羽野 直営でがんばっている今でも、仕事が厳しいので、やめていく看護師さんがおられますよね。
山本 毎年20名くらい採用されるのですが、30名くらい退職されていきます。もし吹田市民病院が独立行政法人化されてしまいますと、給与や職場環境の不安から、豊中、箕面などの市民病院に新人の看護師が流れてしまい、吹田を応募してくれないのではないか、という事態も予想されます。
丹羽野 そうですね。近隣の自治体が直営で病院経営をがんばっている中で、吹田市が先にやるのは、メリットよりもデメリットの方が大きいでしょうね。
山本 ちょうど今、吹田市民病院の建て替えが議論されています。独立行政法人化をなぜこんなに急ぐのかよくわかりません。
さすがに吹田市当局だけで決めるのは無理があると思ったのか、独立行政法人化のための第三者委員会が開かれました。そこで出された危惧は、やはり「赤字になった時にどうするのか?」というもの。6月に出た答申によると、対応策は3つ。(1)職員の給与引き下げ。(2)不採算部門の医療を削減する。(3)市の一般会計から繰り入れ増額、でした。
名目上、「独立」させるのですから、(3)の一般会計からの繰り入れ増額、は望めないでしょう。つまり(1)か(2)ですね。給与を引き下げれば、ますます看護師、医師不足になるのですが、そこは現場でしのいだとしても、問題は(2)の不採算部門切り捨て、です。例えば救急医療は、すでに大阪南部では当番制なのです。医師不足が原因ですが、泉佐野や貝塚、和泉、岸和田の市立病院は小児科や内科の疾病で輪番制をとっています。吹田も「救急医療は不採算」となれば、週に4日しか対応しない、などとなりかねません。
丹羽野 緊急入院する時に、前払いでお金を請求される場合もあるとか。
山本 例えば泉佐野市の「りんくう総合医療センター」では、入院時に「預かり金」を徴収しています。調べて見ると、東大病院や岡山大付属病院なども徴収しています。法人化反対のチラシで紹介しましたが、府立病院が法人化されて、駐車場が有料化されたり、分娩料が9万3千円から15万円と1.6倍に跳ね上がったり…。
それではお金のない人は医療にかかれなくなる…
山田 それでは、お金のない人は病院にかかれなくなりますね。
丹羽野 山田さんたち、障害児・者を抱えるご家族にとっても、不安が募りますよね。
山田 吹田市民病院には障害者歯科があります。法人化されたら、「採算ベースにあわない」と真っ先に削減候補になるのでは、と思います。内科とか外科なら、削減されないでしょうが、「障害者歯科」という特殊な、どう考えても赤字になる分野ですから。
山本 この「障害者歯科」は、平成元年に始まって、たいへん喜ばれている事業です。市民の要望を病院も受け入れて、そして阪大の医師も「やりましょう」と協力していただいて、実施にこぎつけた事業です。年間で約1500万円の赤字ですが、赤字分を市から補助してもらっています。
山田 障害者を持つ親にとっては本当にありがたい医療なのです。診察の待ち時間、おとなしく待てない子もいますから。
山本 逆に、待てないから通常の歯科には通いにくい、という声を聞きます。また、障害者の対応に慣れたドクターなので、患者さんも安心できますしね。
丹羽野 吹田は「福祉の吹田」「子育てするなら吹田」と言われてきました。弱者に寄り添った心優しい医療を続けていきたいですね。
山田 山本 「吹田市民病院は市の直営のままでいい」というチラシを作りました。直営を願う署名にも取り組んでいます。
丹羽野 橋下維新の会などが声高に「民営化」や「非公務員化」を叫ぶので、民営化=素晴らしいこと、のようなイメージが先行しているようですが、公共のまま残して、「誰でも安心してかかれる病院」も必要です。
あまりにも拙速な「独立行政法人化」、私たち労働組合も断固阻止したいと考えています。
今日はありがとうございました。