出席者
千里タイムズ 社長・磯野 新さん
フリージャーナリスト・西谷 文和さん
吹田自治都市研究所 研究員・岩根 良さん
岩根 今回は新春特別企画ということで、私たち3人が「どうなる2013年、吹田の未来」と題して話し合うことになりました。まずは総選挙の結果、安倍内閣が成立しましたが、あらためて小選挙区という選挙制度に問題ありと感じました。自民党は得票数を減らしながらも議席を294も獲得したのですから。
磯野 比例区で200万以上の票を減らしながらの「大勝利」ですからね。自民党が支持されたわけではないが、民主党がそれ以上にひどかった。国民は民主党に愛想をつかせ、かといって維新などの第3極も信用できず、結局は小選挙区比例代表並立制という、選挙制度の矛盾が引き起こした「大勝利」だったわけです。
西谷 維新が獲得した54議席というのは、微妙な数字です。勝ったのか負けたのか?当初100議席を越えるのでは?との観測もありましたが、橋下氏が石原氏と組んでから、急速に風が止まったようです。
原発やTPPなど重要な政策で、東京と大阪であれだけ意見が違えば、底が見えたというか…。
岩根 確かに全国的にはそれほど伸びませんでしたが、近畿ブロック、特に大阪では維新が第一党です。
府民を維新に かりたてるものとは
西谷 何で大阪だけ人気が衰えないんでしょうね?
磯野 そんな中で吹田は数少ない「自民の勝利区」です。渡嘉敷氏が地道に選挙区を回ってましたからね。
西谷 維新の会顧問だった井上吹田市長の「太陽光パネル疑惑」が出て、吹田市民は維新に愛想を尽かせたのでは?
磯野 しかし吹田も比例区では維新がトップで、復活当選した上西小百合氏も市長選挙で井上氏が獲得した票数を上回りました。井上市長の事件があっても、他 政党より維新に期待したようですね。
西谷 不思議なことに、自民党の「とかしきなおみ後援会」が、維新の会の「井上哲也後援会」に2011年度に1千万円も寄附しているんですよ。表の選挙戦では 維新の上西氏と自民の渡嘉敷氏が激戦を繰り広げているのに、裏に回ればお金はぐちゃぐちゃ。
岩根 維新の井上市長が初当選を決めた時、隣で万歳していたのが自民の渡嘉敷氏でした。有権者から見れば、わけが分からん状況でしょう。
磯野 市民は維新に何を期待して投票したのかな?私の周りには「維新に期待したが、裏切られたわ!」と怒っている市民もおられます。比例で1位になるよう な情勢ではないと思ってました。争点になるものもなかったし…。
西谷 まさにその「争点になるものを作らない」のが橋下流だと思うのです。何となくのイメージで選挙を乗り越えようという…。
岩根 大阪府・市のダブル選挙の時は、大阪都構想という「争点」を押し出しました。今回は、そんなものさえなかった。
西谷 大阪都構想も、いざ「どことどこの区が合併するのか?」と具体的な質問になると、橋下氏は「それは公募の区長が決めること」と逃げます。イメージ先 行で中身なし。
岩根 原発や消費税、TPPなど大事な施策の是非を問うはずなのに、政党が乱立して、何かぼやけた感じでしたね。
磯野 みんな「ふわっとしたイメージ」に弱いのかな?決して橋下氏のやっていることに諸手を上げて賛成ではないと思うのですが。
市長と政党代表代行の2足のワラジでも平気
西谷 第3極のもう一方である未来はなぜ伸びなかったのでしょうか?
磯野 候補者の大半が民主党の離脱組。滋賀県の嘉田知事を党首に担ぎ、斬新さを出したものの、「未来は小沢党そのもの」と見抜かれてしまったのでは?
岩根 嘉田氏も突然党首に祭り上げられましたが、原発政策などで右往左往したこともあり、気の毒な結果になりましたね
磯野 「知事と党首を兼職するのは無理だ」と滋賀県議会から突き上げられたり、未来の中で大勢を占める小沢氏のグループと袂を分かったという形式をとりましたが結局は放り出されてしまいました。あまりにもあっけない結末ですね。
西谷 大阪市長と政党代表代行の兼職も問題になるはず。でも橋下氏には、そんな攻撃がかかりません。
磯野 橋下氏に正面から切り込むと、返り討ちにあうと足がすくんでいるのでは?新聞記者もテレビのレポーターも個人攻撃されますしね。
岩根 有権者の中に3年前の政権交代の時のような高揚感がありません。むしろ「自民に勝たせすぎたのでは?」と危惧する声の方が大きいのでは?
西谷 自民、公明あわせて衆議院では3分の2を超える議席。参議院で否決されても衆議院で再可決すれば、どんな法案でも通ります。憲法9条の問題では、維新 も改憲勢力なので、本当に国防軍ができかねない。
磯野 毎日新聞の調査では、今回当選した衆議院議員の72%が9条改憲に賛成のようです。次の参議院選挙で同じような結果が出れば、憲法は変えられてしまう でしょう。
選挙制度の不備の中 現実味をもつ「改憲」
西谷 今年7月の参議院選挙は、いろんな意味で決戦ですね。原発、消費税など、世論は反対が多いのに、選挙結果は逆になる。そんな状況、選挙制度の不備を ついて、憲法が変えられてしまうと、歯止めが利かなくなります。
岩根 だから安倍政権は参議院選挙まで「安全運転」で、国防軍や消費税のことをあまり話題にしないでしょう。アベノミクスや国土強靭化で景気浮揚などと、 あたかも景気が良くなるような宣伝をしてくるのではないでしょうか。
磯野 自民党が今後10年で200兆円、公明党も100兆円の公共事業を提言しています。公共事業で景気が良くなればいいのですが、実際は一部のゼネコンや大企業 に金が回るだけで、庶民には回って来ないのではないかと思います。それと、自民党は年明けに、所得税の最高税率引き上げ時期が消費税導入時期と重なると、「富裕層に 負担が集中する」という理由で引き上げの先送りを検討しましたね。結局は先送りはしないようですが、大企業や富裕層だけに顔を向ける政権の姿が垣間見えたともいえま すね。
西谷 お札をどんどん刷ってデフレからインフレへと。でも給与は上がらず物価だけ上がるといった事態にならないか、銀行や証券会社だけに金が回って、庶民 の懐が本当に暖まるのかな、と感じます。
磯野 雇用も改善されるのか?政府は、年間で雇用者数を増やした企業の法人税を軽減する「雇用促進税制」の拡充を検討しているとのことですが、実効性はど うなんでしょうか。公共事業が増えても、今まで通りのやり方で非正規の人に働かせるのでは?
岩根 一方で例えば電気産業では、大量の首切り合理化を進めています。結局、公共工事ではなくて、労働者の賃金を底上げして、国民の購買力、内需を刺激し ないと景気は良くならないと思います。
磯野 有権者の中に政治不信、閉塞感がある。それが低投票率につながったんでしょうね。
岩根 そんな総選挙の結果を受けて、大阪はどうなっていくでしょうか?
西谷 橋下市長が今年一番力を入れて取り組むのが、「市営地下鉄の民営化」だと思います。黒字の地下鉄を民営化して関西の私鉄に譲り渡す。赤字の市バスは切り捨てていくでしょう。関西財界は(1)関電(2)住友(3)パナソニック、そして(4)私鉄5社なので、財界が喜ぶような政策を打ち出して、お墨付きをもらって参議院選挙に出馬する、というシナリオですね。
岩根 確かに区民プールや市民病院の廃止、補助金カットなどで大阪市民の中に「アンチ橋下」の人が増えてきたようです。ただ、選挙ではまだまだ「ふわっとした民意」が橋下さんを支持していますね。
府市民サービスや施設をバッサリと
西谷 「大阪には吉本票がある」「タレント議員が生まれやすい」とよく言われます。しかし橋下氏はかつてなく市民生活に関する予算を削ってきました。それでもまだ人気を維持しているのは、メディアの露出度と彼一流の話術なのかなぁ?
岩根 府下の某駅頭で橋下氏が演説していたそうです。「みなさん、この駅に図書館がありますが、行ったことありますか?」。多くの人が「ない」と答える。その上で「図書館に金がかかりすぎている。職員が多すぎる」と。図書館だけでなく、市や府の施設を1つずつ挙げていって、無駄が多すぎる、削れ!と叫んでいき、その度に拍手が起こる。でもそこで聴衆の1人から「お前、救急車に乗ったことないから、救急車いらへん言うのか!」。もしその野次が飛ばなかったら、住民の権利保障という自治体の責任を放棄する「橋下改革」の危険性について、聴衆は理解できなかったかもしれません。
西谷 地下鉄問題でも、彼は「売店がコンビニになった」「トイレ掃除をきれいにするようになった」。だから民営化すればもっと良くなりますよ、と宣伝します。でも今までは地下鉄の黒字分をバスに補填して、儲からないバス路線を維持してきたのです。市営なのでその流用が可能だった。しかし民営化されると80以上のバス路線が切り捨てになる。車を持たない老人や子どもはたちまち困ってしまいます。売店がコンビニになることと、市民、府民の交通権とどちらが大事か、という判断をしないとダメでしょう。
市民、職員にはガマン 自身は「疑惑事件」に
岩根 そんな維新の政治が吹田でも継続中です。昨年末の「太陽光発電疑惑」(詳細はこちら)には、みんなあきれましたね。
磯野 あの事件は単純に井上市長だったから起きたと考えるよりも、前任者の阪口市長から続く吹田市の体質が問題だったのではないかと考えています。
岩根 吹田市の体質、といいますと?
磯野 問題となった企業の社長は市長の側近、後援会の幹部でもありましたが、阪口市長の時代から、「市の名士」だったんですよ。市の幹部職員たちは、そんな有力者に媚を売り、気に入られたい、という意識が働くので、見積書を偽造して便宜を図ったのではないか?
岩根 そのあたりの事実経過も市議会の100条委員会で調査・究明することになりましたね。
磯野 見積額よりかなり安く落札させるように、つまり入札差金がでるように操作して、2千5百万円近いお金を浮かせた上で、「有力者」であるこの企業(摂津電気)に単独随意契約で発注したのです。井上市長は部下がやったこと、と釈明していますが、万一、本当に知らなかったとしたら、それはそれで「吹田市の体質」が問われるわけです。
岩根 そんな中で富田副市長が辞任されたわけですが。
磯野 いろんな意味で逃げられたのでは?吹田操車場跡地に国立循環器病センターを移転させるという誘致プロジェクトの専任だった。「吹田に来る」と大見得を切っていたのに、どうも箕面に行きそうだ。そんな中、この疑惑事件が出てきた。ならば自分の首を差し出すことで、どちらも解決させよう、ということでは?
岩根 行政の維新プロジェクトで、例えば福祉バス希望号を廃止したり、高齢者への「はり・きゅう助成」を削ったり、保育所の民営化を言い出したり、市民サービスを縮小しながら、自分たちは「疑惑事件」を起こしていたのですから、市民はもっと怒るべきですね。
磯野 橋下氏の真似をして、吹田でも数々の「プロジェクトチーム」や「有識者会議」を行い、「いかに市民サービスを削るか」について議論したわけです。そんな行政のあり方も見直すべきでしょう。
西谷 そのプロジェクトチームも条例を定めないやり方で、外部委員に報酬を支払っていました。太陽光パネル事件をはじめ、身内は税金で優遇し、お年寄りや子どもにはしわ寄せを迫る、という市政を変えないといけません。
岩根 いずれにしても、これらの事実をどう見るのか、市民的な議論が必要でしょう。今年は7月に参議院選挙があります。とりわけ吹田市では、疑惑解明と維新プロジェクトの見直しが大きな課題です。不正を許さず、市民福祉や子育て予算、教育や医療を守る市民運動を進めていきたいですね。きょうはどうもありがとうございました。