SUITA市民しんぶんVol.4(2006)
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レバノンの首都ベイルートにはカタールのドーハ経由で入った。サッカーファンならおなじみの「ドーハの悲劇」。対イラク戦2対2の引き分けで、W杯出場権を逃すという「悲劇」だったが、「レバノンの悲劇」は、無差別に人が殺された「本当の悲劇」だ。
イスラエルとヒズボラの全面戦争が勃発したのが今年の7月12日。激戦地となったレバノン南部を歩いて、「被害者はいつも女性や子ども、老人たち」だと感じた。
杭にはロープが張ってあり、「ラインから外へでるな」と注意される
「いいですか、この紙に血液型を書いてください。万一のことがあります。絶対にラインを離れないでください。カメラマンは撮影のために近づくので特に危険です。昨日も9歳の少年が…」。ここはレバノン南部、カブリーハ村。何の変哲もない農家の前で、バクティックというイギリスのクラスター爆弾除去チームのメンバーが私たちジャーナリストに注意事項を述べる。イスラエルがレバノン南部にばら撒いたクラスター爆弾は、120万発と言われる。停戦後も子どもや農夫、羊飼いのベドゥインなどが、クラスターの不発弾で犠牲になっている。「戦争はまだ終わっていない」のだ。
オリーブ畑に転がる不発弾
バクティックの除去チームが、農家の裏庭へ案内する。収穫された玉ねぎの横に…。
「これがクラスターの子爆弾です。ええ、アクティブ(爆発可能)です。M42という旧式タイプで、イスラエルは地対地ミサイルで撃ってきたのです」。
クラスターというのは「ブドウの房」という意味で、親爆弾の中に子爆弾がたくさん詰まっている。戦闘機から放たれるタイプは、一発の親爆弾から640個の子爆弾が飛び散り、その内10〜15%が不発弾として残る。地対地ミサイルからのクラスターは1発の親爆弾から88個の子爆弾が飛び出し、その内なんと40%は不発弾だ。クラスターの多くは、停戦2〜3日前、つまり今年8月中旬にイスラエルが、南部レバノンにばら撒いたのだ。
裏庭からオリーブ畑へ。先導者の歩くコースを忠実にトレースする。
「あそこに転がっている」「ここにも」。除去チームがオリーブの木の根元を指差す。M42子爆弾が不気味な姿で転がっている。何しろ120万発だ。これでは恐ろしくて農作業はできない。
クラスターの位置を特定すると、いよいよ「除去作業」だ。子爆弾のそばに、慎重に爆薬をセットし、長い電線コードを引っ張って3、2、1でドカン!一つの子爆弾を除去するのに、熟練チーム数人が手間隙かけてようやく爆破。全部除去しようと思えば何年かかることやら。
シャディさんの両足には、無数の鉄片が突入した
サイダというレバノン南部の街、ハムード病院を訪れた。2人の農夫がベッドに横たわっている。サルハさん(50歳)は9月9日、シャディさん(27歳)は9月13日、ともにみかん畑でクラスターを踏んでしまった。子爆弾には無数の鉄片が詰まっており、彼らの身体にはその鉄片が突き刺さっている。「いったい何個くらいの鉄片が?」とたずねると、担当医師は「数えられないよ」。
「今からシャディさんの両足に巻かれたガーゼを取り替え、消毒する」というので、患部を撮影。医師は、患部を固定している金具を持ち上げ手荒な手つきでガーゼを剥ぎ取っていく。シャディさんの足は、骨と筋肉が剥ぎ取られ、あちこちに鉄片が突入した穴が開いている。医師はその穴に遠慮なく消毒液を流し込み、ピンセットで肉片と共に突入した鉄片を取り出そうとする。そのたびに「ドクトール!」と悲鳴を上げるシャディさん。
クラスター爆弾は「非人道兵器」と言われる。人の手足を吹き飛ばす対人地雷は、あまりに悲惨なので、NGOなどが奮闘し、ようやく国際的な使用禁止条約が結ばれた。しかしこのクラスターは、イラクやアフガンでアメリカが、レバノンでイスラエルが使用したように、いまだに国際的な禁止条約は結ばれていないのだ。
9・11後、私は戦火に巻き込まれたアフガンとイラクを取材した。イラクでは劣化ウラン弾という「悪魔の兵器」によって子どもたちががんに侵されていた。アフガンでは、アメリカは空からクラスターと食料をばら撒いた。子どもたちは食料だと思って子爆弾を拾い、傷つき、殺されていた。
そしてレバノンである。イスラエル・アメリカ連合は「テロとの戦い」を止めようとしない。もちろんヒズボラがミサイルで応戦しイスラエルの民間人を殺害したことについても非難しなければならないが、犠牲者の数が圧倒的に違うのだ。
レバノン人が「イスラエルに報復を」と叫ぶ時、私は暗然たる気持ちになる。「報復すれば、またその何倍も殺されてしまうよ」と。
「やられたらやり返せ」では、戦争は無限に続き、結果として子どもたちが殺される。「戦争ではなく話し合いを」「もう戦争はしない、武器は持たない」という日本の憲法9条の精神こそ、これ以上の殺戮をストップさせる唯一の方法だと思うのだ。
(フリージャーナリスト・西谷文和)
クラスターとは「ぶどうの房」という意味。親爆弾が空中で爆発し、数百個の子爆弾が飛び散る。地面にたたきつけられた子爆弾は無数の鉄片を飛び散らせる。周囲にいた人々が確実に死傷する残酷な兵器。20〜40%の子爆弾が不発弾となり地雷の役目を果たす。
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