2月25日から3月13日、4度目のイラクへ。
戦禍の中、あまりにもひどい子どもたちの現実が迫ってきた。
西谷 文和(イラクの子どもを救う会)
米兵の「気まぐれ発砲」で下半身不随に。ディア君家族には何の補償もない体の中に入ってから爆発するタイプだった。50以上の破片が体内に残る 「あぁ、これはひどい」
父親がディア君(9歳)のセーターをまくり上げ、背中を見せる。
ここはシリアの首都ダマスカス。イラク戦争後、多くの難民がこの街に逃げてきている。ディア君の背中は、銃弾で大きくくぼんでいる。
2005年7月10日、きょうだい5人を乗せた車は、ディア君の通う小学校へと向かっていた。突然、ビルの屋上から米兵が銃を乱射してきた。バグダッドでは米兵による「気まぐれ発砲」が後を絶たない。
父はとっさにUターンし、逃げようとしたが、不幸にもその中の一発が彼に命中したのだ。
米兵が放った銃弾は身体の中に入ってから爆発するタイプで、ディア君の体内にはいまだに50以上の破片が残る。銃弾は神経が通る背骨を損傷させ、彼は下半身不随となり車椅子の生活が始まった。
サッカーが大好きだった少年は、もう学校に行くことができない。「みんなが校庭でサッカーをしているのを見るのがつらいんだ。普段は家にいて、たまに外を散歩するくらいだよ…」元気な頃を思い出したのか、ディア君はぽろぽろと涙をこぼし始めた。車椅子を持つ父親も泣いている。
「何が起こったのかすぐには分からなかった。気がつけばお兄ちゃんが倒れていた。あたりは血の海だったよ」。弟ハムド(8歳)が当日の様子を振り返る。
「僕はお医者さんになって、お兄ちゃんを歩けるようにしてあげたいんだ。今の夢? お兄ちゃんが車椅子から立ち上がって、僕と一緒にサッカーをしてくれることだよ」。ハムド君も大粒の涙を流す。通訳も私も涙で次の質問が続かない。
父親が「公式記録」を持っていた。「占領軍(アメリカ)が放った弾丸が、この子の背中に命中。下半身不随となる」と、イラク裁判所が正式に認めている。
「それでもアメリカから何の補償もない。彼らは銃撃したことすら否認しているんだ」。4ヶ月に及ぶ闘病生活後、もうバグダッドには住めないと判断した父は、家財道具を売り払ってダマスカスへやって来たのだ。
米軍に背後から撃たれたアーヤちゃん イラク・スレイマニアに入国したのは3月4日。がんセンターで、日本からの支援として薬を手渡す。その後「スレイマニア緊急病院」へ。
一人の少女が泣き叫んでいる。07年1月、いつものようにアーヤちゃん(12歳)は友人3人で小学校から下校途中だった。アーヤちゃんの街バクーバは、アメリカと最も激しい戦闘を繰り返す、スンニ派の拠点都市の一つ。その日、小学校の前をいつもと同じように米軍の戦車が通り過ぎる。その時、道路わきに仕掛けてあった爆弾が爆発。米兵は無事だったが、このような攻撃直後、米兵は「クレイジー」になる。
「周囲にテロリストがいる」と銃を乱射する米兵。同級生は凶弾に倒れて即死、アーヤちゃんは両足に重傷を負った。
「なぜだ! 米兵は娘の背後から撃ってきたんだ。子どもじゃないか! うちの娘がテロリストとでも言うのか!」。「ホワイ?(なぜだ)」を繰り返す父、泣き叫ぶアーヤちゃんの身体を心配そうに気遣う母。
クラスター爆弾で「全身穴だらけ」のウサマ君 向かいのベッドにはウサマ君(6歳)が横たわっている。全身に黒い斑点、両足に白いギプス。
3日前、少年たちは茂みの中に落ちていた「不思議な金属」を見つけた。90年代にサダム・フセインがクルド人掃討作戦で使用したクラスター爆弾の不発弾だ。その「不思議な金属」は少年たちの好奇心をくすぐった。やがて…一緒に遊んでいた2人の子どもは即死。ウサマ君だけが生き残った。痛みをこらえるウサマ君の瞳から涙がこぼれる。
クラスター爆弾の不発弾は別名「チャイルド・キラー(子ども殺し)」と呼ばれる。形状が様々で、子どもの興味を引きやすく、「この金属に触れてはいけない」という教育を徹底しない限り、ウサマ君のような被害者は増え続ける。
「大量破壊兵器がある」という、ウソで始まったイラク戦争からもう4年が経過した。「バグダッドで自爆テロ。50人が死亡」などと、日本では「数字だけ」が報道されている。しかしその数字の向こうには、ディア君やアーヤちゃん、ウサマ君がいるのだ。
今、日本の航空自衛隊はクウェートからバグダッドへ物資を輸送している。バグダッドは戦場だ。いったい自衛隊は何を運んでいるのか? もし米軍への武器弾薬であったら。それは「戦争という人殺し」に協力していることになる。
政府は、今年7月に期限切れを迎える「イラク特措法」2年延長すると閣議決定した。いつまで「犯罪者アメリカ」に協力するつもりなのか。一刻も早く航空自衛隊を撤退させ、この戦争を終わらせることが必要だ。
西谷さんが代表を務める
「イラクの子どもを救う会」事務局は06・6192・7033
●同会への募金は、
三井住友銀行吹田支店 普通口座3712329
口座名義「イラクの子どもを救う会 西谷文和」
●郵便振込
口座番号00970-5-222501口座名義「イラクの子どもを救う会」