射撃訓練の教官は、沖縄からの米兵だった
上:150m地点から「タリバン殺害」訓練
中:「反米デモ」を鎮圧する訓練
下:イタリア兵が「タリバン逮捕」の方法を教えていた
10月6日から20日まで、6度目となるアフガン取材を敢行した。冬を迎える首都カブールの夜の気温は、すでに氷点下近くまで下がっている。今回も避難民キャンプに食料を届けるとともに、病院には医薬品を配布した。そして初めてISAF軍(国際治安支援部隊)の基地に入り、米兵やアフガン兵から直接話を聞くことができた。銃を構え、タリバン殺戮訓練をしている米兵は、多くがまだ20歳そこそこの若者で、そして沖縄、横田、三沢など在日米軍基地から派兵されていた。
「うわー、広いな。どこまでが基地?」「あの山の向こうまでだ」。通訳のサバウーンが山の彼方を指差す。ここはカブール郊外、アフガニスタン軍基地。
広大な基地をドライブすること半時間、禿げ山をバックにライフル銃を持った多数の警官たちが現れた。射撃訓練場だ。
数十人の警官が整列している。そして約150m先には「タリバンを想定した標的」。
「構えて!よーい、撃て!」。バンバンバン、耳をつんざく轟音とともに、薬莢が飛び散り、的に穴が開いていく。迷彩服を着た米兵たちが、アフガン警官に銃の構え方、撃ち方を指導している。
「全員、進め!」かけ声とともに、銃を担いだ警官たちが50mほど標的に近づく。約100m先の「タリバン」に狙いを定め、「撃て!」の号令。一斉に火を噴くカラシニコフ銃。やがて警官たちは「タリバン」まで7mのところで「接近戦」の訓練。その後回れ右をして元の位置、つまり約150m離れた地点まで行進する。
警官たちに実弾が配られる。私とロイターの記者には耳栓が。至近距離で撮影していると、耳が持たない。口径8ミリの実弾をライフルに詰め込む警官たち。やがて「構えて!よーい、撃て!」の号令とともに、轟音が轟き、薬莢が飛び散る。この繰り返し。
細かい話だが、実弾、警官たちの防弾チョッキ、銃、ヘルメット…。これらは大量に消費されるので、軍需製品を作る企業はかなりの収入になる。「戦争は儲かる」のだ。
採点が始まった。黒い部分が4点、白線から内側が5点。「65点は合格?」「まぁまぁだね」米兵が親指を突き上げる。
教官である米兵たちにインタビュー。「どこから来たの?」「ワシントン州から」「アフガンは初めて?」「そう、ここに来る前はアフリカにいた」。そんなインタビューをしていた時だった。別の米兵が近づいてきた。「俺は沖縄にいたよ」「本当?沖縄のどこ?」「キャンプシュワーブ(辺野古)」。
今問題になっている普天間基地の移設予定地である辺野古から、彼は激戦地アフガンへ派兵されている。訓練の合間を縫ったインタビューだったので、数人の米兵にしか聞き取りができなかったが、横田、三沢、辺野古、横須賀。出るわ出るわ、日本の地名。アメリカ本土からイラク・アフガンは地球の裏側に当たる。いったん日本にやって来て、そこで(人殺しの)訓練を積み、戦地にやって来ているパターンが多い。逆に言うと、日本の米軍基地がなければ「テロとの戦い」はやりにくい。
広大なアフガン軍基地と比べて、「アフガン警察官トレーニングセンター」は、少し小さめの施設だった。
センター内部では約450人の新任警官たちが、「タリバンを捕まえる訓練」を行っていた。
教官はイタリア兵士。警棒で2度3度と相手を殴り、脇の下に警棒を突っ込んで、地面に押さえつける。足と警棒で相手を動けなくしてから手錠をかける。
「さぁ、やってみろ」イタリア兵士の面前で、タリバン役になった警官を、別の警官が地面に押さえつけ、手錠をかけていく。
傍らでは「POLICE」と大書された盾と警棒を持った警官たちが整列している。「逮捕せよ!」のかけ声とともに、警官たちが警棒を振り上げ、盾を持ってじわじわと迫ってくる。雄叫びをあげ、警棒で盾を打ち鳴らしながら、じりじりと進む。これは「反米デモ鎮圧作戦」。米軍が誤爆でアフガン人を殺せば殺すほど、各地で抗議デモが起こる。責任は米軍にあるのだが、そのデモをアフガン人で鎮圧させようという魂胆である。
北風と太陽。アフガンでISAF軍や米軍がやろうとしているのは、「暴力を暴力で押さえつける」作戦だ。米軍の撤退が4年後の2014年。それまでにタリバンと闘えるような軍と警察を作り上げておこうということ。そして日本政府はこの警官たちの給与の半分を負担している。つまり日本も「北風の一員」なのだ。
しかし今のアフガンで本当に功を奏するのは、「太陽作戦」だと思う。農民たちがなぜタリバン化するのか?それは空爆で村を焼かれ、親を殺された若者が、反米感情を高めて、ニュータリバンとなるからである。貧困に苦しむ農民たちに、食料を供給して、学校を作り、医薬品を充実させれば、彼らにも希望が見える。希望が見えれば簡単には自爆しない。学校で文字を学習すれば、新聞が読めるようになるので、タリバンの戦闘行為にも非があることを知るだろう。
日本は今年から5年に渡って50億ドル(約4000億円)を支援する。支援金はおそらく警官たちの給料に回り、基地関連土木工事に使われ、そしてカルザイ政権の汚職に消える。一部でもいいから病院や避難民キャンプに直接入ることを願う。
今求められているのは非暴力の援助、つまり太陽作戦である。しかし今の菅内閣は、対中国やロシアとの折衝で、外交力が全く幼稚であることが露呈してしまった。極度にアメリカに頼りすぎると、必ずイラクやアフガンで、そのツケを払わされるのだ。どんな大国とも対等に相手ができる「大人の内閣」に変えなければならないと感じる。
ジャーナリスト 西谷 文和