万博記念公園の「太陽の塔」を背に、天空を向くミサイル発射台――。今月10日朝、新聞を開けてのけぞった読者は少なくないのではないだろうか。この日の各紙の朝刊は、前日夜に自衛隊が万博公園で行った地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)の展開訓練を写真付きで報じていたからだ。
PAC3(=パック・スリー)は、地上から数十キロ上空を飛ぶ弾道ミサイルを打ち落とす能力を持つとされる防空システムだ。各紙の記事によると、訓練には自衛隊員約50人が参加し、車両20台が集結したという。
だが、これほど大規模な訓練を地元の吹田市民は全く知らなかった。その夜、何があったのか?訓練を取材した記者に聞いた。
閉園後、航空自衛隊第4高射群白山分屯基地(三重県津市)の所属部隊がPAC3の発射台やレーダーなどをトレーラーで運び込み、実戦さながらに迎撃態勢をとる訓練をした。一連の訓練のうち午後10時から1時間が在阪メディアに公開された。
市民が知らなかったのは、自衛隊が各メディアに、事前報道はむろん、訓練終了後も翌10日午前5時まで報道しないように求めていたからだ。その理由について航空幕僚監部の広報担当者は「不測の混乱が起こりかねず、住民にも迷惑がかかり、部隊も危険にさらされるため」と説明した。当日は万博公園の出入り口に自衛隊員が歩哨に立ち、記者が乗ってきたタクシーの運転手にも口止めを求める徹底ぶりだった。
集まった記者たちの質問も、そこに集中した。だが、広報担当者の説明は「有事の際に国民の生命・財産を守るため、自衛隊施設外を含めて展開訓練を重ねておく必要がある」といった抽象的な内容にとどまった。
自衛隊側は、今回の訓練について「地元自治体の協力を得られたことが大きかった」とも説明した。万博公園を管理しているのは「国」(財務省所管の独立行政法人、日本万国博覧会記念機構)だが、吹田市、大阪府の協力が何より大きかったということだろう。
自衛隊側の説明によると、今回はPAC3 の発射台やレーダー、管制装置などを車両で運び込み、迎撃態勢をとるまでの手順を隊員に習熟させる訓練で、発射台には実弾は込められず、危険はなかったという。また、あくまで万博公園を訓練地として使っただけで、有事の際の展開候補地としているわけでないと説明していた。
過去3回、自衛隊施設外で行ったPAC3展開訓練のうち、報道陣に公開されたのは初回の新宿御苑の訓練(2010年4月)と今回の2回だ。3年半ぶりの公開は、PAC3の存在を国民に強くアピールしたいというねらいがあったことはあきらかだろう。推測もまじえて言えば、太陽の塔とPAC3の発射台という「絵になる構図」で訓練したのも、宣伝戦略の一環ではないか。
記者の言うとおりであれば、万博公園でPAC3の訓練が行われたのは、大阪府知事と吹田市長の判断がカギだったといえる。たとえ危険がないとしても、これほど大がかりな「軍事訓練」が秘密裏に行われることがあってよいのだろうか?吹田市、大阪府には住民への説明責任がある。太陽の塔がPAC3の格好の宣伝に使われたことに、天国の岡本太郎はどんな思いでいるだろうか?