アフガンでの「テロとの戦い」が始まってから、今年で12年になる。この間にオサマ・ビンラディンが殺害され、大統領もブッシュからオバマに変わったが、戦争は終わらない。無人機による米軍の空爆が続き、新たな犠牲者が出ているし、アフガンやパキスタンの村々からは、「ニュータリバン」と呼ばれる軍事行動をとるグループが台頭している。そんな「終わらない戦争」のしわ寄せは、主に女性や子ども、貧困層に集中する。今年8月、アフガニスタンの首都カブールを訪問し、「ドイツ平和村」の活動を取材した。
ペン型仕掛け爆弾で負傷したアハマド君。ドイツでの治療で元気になってほしい。
「通学路でペンを拾ったんだ。ちょっと重かった。ペン先が開かないので、口にくわえて引っ張ったんだ。そしたら…」。アハマド君( 10)の記憶はそこで途切れている。閃光が走り、気がつけば病院のベッドの中。口に大きな穴があき、「ペンに似たもの」を持っていた右手の指は吹き飛んでいた。
インタビューしたのはカブールの赤十字社。アフマド君のような直接、間接に戦争で被害を受けた子どもたち57人が集まって来た。彼らは明日、ドイツへと飛んでいく。「NGOドイツ国際平和村」が、アフガンでは治療できない子どもたちをドイツで治療し、元気にしてアフガンに送り返してくれるのだ。
アハマド君が拾ったペンに似せた爆弾は、おそらく米軍がばらまいたものだ。タリバンはこのような爆弾は作れないし、持っていないだろう。
なぜこんなにも残酷な爆弾が仕掛けられたのだろうか?
それはおそらく「タリバン少年兵」への米軍からのプレゼントだろう。米軍に自爆テロを仕掛けるのは、総じて若者が多い。マドラサと呼ばれるイスラム神学校で、誤ったイスラム原理主義に洗脳された若者が、タリバン少年兵となって突撃してくる。神風特攻隊が10代、20代の若者中心だったように。
そんな「文字通りのタリバン」(タリバンとはアラビア語で学生という意味)に手を焼いた米軍が、このような仕掛け爆弾をばらまいたと見るのが自然だ。
せめて被害を受けた 子どもたちの希望に
タリバンの仕掛けた爆弾の巻き添えになったアシナーちゃん。両足にはハエがたかっていた
アハマド君の隣に横たわっていたのが、アシナーちゃん(10)だった。
4か月前、親族の結婚式に招待されて、母と一緒にカンダハルの国道をドライブしていた。突然閃光が走り、身体ごと吹き飛ばされた。カンダハルでは、頻繁に国道を通行する米軍を狙って、タリバンが路肩爆弾を仕掛けている。母は即死、彼女は両足に重症を負った。毛布をめくり上げて、その両足を撮影する。
多数のハエが彼女の両足にたかってくる。細胞組織が壊死を始めていて、両足がすでに「肉のかたまり」になったと判断したハエが、攻撃を仕掛けてくるのだ。急いでドイツに行って治療しないとダメだ。彼女の手首に「1」の番号。ドイツ平和村のスタッフがつけたもの。57人の子どものうち、一番緊急性があると判断されているのだろう。
ドイツでの手術が成功して、リハビリをがんばれば、また学校に行けるようになるだろう。おそらく激戦地カンダハルやヘルマンドでは、アシナーちゃんのような子どもがたくさんいて、ひっそりと暮らしている。アシナーちゃんは、そんな子どもたちの希望になればいいと思う。
ドイツ国際平和村は1967年に設立された。イスラエルがアラブ諸国を電撃的に侵攻した第3次中東戦争。この戦争で悲惨な子どもたちの姿を知ったドイツ市民が、平和村を設立。同時期にベトナム戦争が激化したので、当初はベトナムの子どもをドイツに招いて治療を開始。以後40年以上、アンゴラやシエラレオネなどアフ
リカ諸国と並んで、アフガンの子どもにも救援の手を差し伸べて来た。
子どもたちと平和村スタッフがバスに乗り込む。いよいよカブール空港からドイツへと飛んでいくのだ。父母との別れ際、泣き叫ぶ子どもたち。日本の学童疎開もこんな情景だったのではないか。母から聞いた学童疎開の経験談を思い出す。今回のドイツ治療に関して、500~600人の子どもの応募があった。その中から絞り込まれたのが57人の子どもたち。来年帰国した時は、笑顔に変わっていることだろう。
戦争こそ究極の弱肉強食の経済だ
貧富の格差が広がったカブール。難民キャンプの背後には、おしゃれな結婚式場が建っている
カブールの中心街から東へ車で1時間。山を切り開き、一本の道路が建設中だ。重機が林立し、建設資材を運ぶトラックが渋滞を作る。「ニューカブール」がこの広大な敷地に建設されている。日本の支援金4800億円を始め、アフガンには世界からの復興支援金が集中している。そのお金で「ニューカブール」が作られ、高層ビルが建てられている。そう、カブールは「復興バブル」で、あちこちにマンションが建築中。こうした工事は欧米系の企業が受注し、アフガンの地元ゼネコンが請け負っている。だからカブールに高級デパートがオープンし、貴金属店やパソコン店が電飾で飾られ、着飾った「アフガン富裕層」がウインドーショッピングしている。そしてその高級デパートのすぐそばに難民キャンプが広がっているのだ。なんという格差だろう。
戦争は、街を壊し、治安を悪くする。そうなれば、街を作りなおすゼネコンが儲かり、治安を維持する民間セキュリティー会社が儲かる。もちろん、武器を販売する軍産複合体はすでに巨額の利益を上げているし、そんな企業に融資する金融機関も空前のボロ儲けをしている。戦争こそ究極の弱肉強食、新自由主義経済をもたらすのだ。日本では安倍内閣が着々と日本を「戦争できる国」に作り替えようとしている。日本政府は集団的自衛権の行使といいつつ、自衛隊をアメリカの戦争に巻き込もうとしている。戦争初期から「同盟軍」として「貢献」することで、こうした「戦争経済」のおいしい部分に食い込もうとしている。日本は今、長期不況でデフレに見舞われている。アベノミクスをマスコミは持ち上げているが、その景気回復策は原発の輸出と、このような戦争参加なのだ。儲かれば何をしてもよい、ということではない。みんなが幸せになり、かつ、豊かになれるような「ウインウイン」の政治、経済をめざすべきではないだろうか。