昨年末の特定秘密保護法案の強行採決、靖国神社への参拝、沖縄・辺野古への新基地押しつけなど、安倍政権の右翼的な姿勢がどんどんエスカレートしてきています。
岩根
「2014年の政治や経済の行方を分析してほしい」と、編集部から私に依頼がありました。そこで神戸大学名誉教授で吹田自治都市研究所所長の二宮さんをお招きし、安倍内閣をはじめ、昨年末から新年にかけたこの間の情勢について伺うこととなりました。二宮先生は、現時点での安倍内閣をどうご覧になっていますか?
二宮
安倍首相は以前から「戦後レジームからの脱却」、つまり平和憲法、特に9条を改悪して「戦争できる国づくり」をめざしてきました。元々右翼的な思想の持ち主でしたが、昨年末の特定秘密保護法案の強行採決や、靖国神社への参拝、沖縄・辺野古への新基地押しつけなど、その右翼的な姿勢がどんどんエスカレートしてすでに「レッドカード状態」、つまり一発退場を求める時が来ていると思います。
岩根
確かに安倍内閣の発足時に比べて、暴走がスピードアップしてきましたね。
二宮
「憲法9条を変える」「米国と一緒に戦争する」と言えば、国民の反発を招くので、「集団的自衛権の行使」という「解釈」で、憲法を変えなくても戦争ができますよ、というのが今の安倍内閣です。この問題では、安倍首相自身がかなり前のめりになっていて、「憲法解釈に関する最高責任者は私だ」と言い放ちました。我が国は立憲主義ですから、首相や国会議員の方が憲法に縛られているのです。それを無視して「最高権力者は私」などと発言すれば、世界から「日本は独裁国家になったのか」と疑われても仕方のない発言です。
財界からも懸念の声が出ています。例えば元伊藤忠商事社長で前中国大使の丹羽宇一郎さんが、朝日新聞のインタビューに答えて「(集団的自衛権の行使は)スポーツ選手が自分の都合でルールを変えるようなもの。姑息な手段ではなく、正々堂々と国民に信を問うべき」とおっしゃっています。財界の中心人物でさえもが「やり方が無茶苦茶だ」と批判しているのです。
岩根
さすがに「やり過ぎだ」と批判が集中して、安倍内閣の支持率は下降気味ですが、国会の力関係は変わらないので、「人気が衰えないうちにスピードあげて、やってしまえ」といったところでしょうか。
そんな中、あれほどマスコミが持ち上げてきたアベノミクスですが、最近は株価が乱高下して、アベノミクスは大丈夫なのか、という論調も出てきました。私は常々、アベノミクスの本質は、武器と原発の輸出で、景気浮揚を図るもので、賛成できないと思っているのですが。
二宮
武器輸出3原則を見直して日本の武器が売れるようになれば、明らかに軍需産業は「成長」します。原発輸出も財界の成長戦略です。簡単に図式化するとパナソニックやシャープなどの「関西弱電メーカー」と、三菱、東芝、日立など旧財閥系の「関東重電メーカー」があって、従来型のテレビや白物家電の輸出は、競争力がなくなって伸びていかない。一基あたり5000億?1兆円の原発なら、商売になる。そのためには政府をあげて売り込まねばならない。だから安倍首相は1年に何回も「外遊」して、トルコやインドに原発を売り込んでいるのです。例えば日立はイギリスのホライズンという原発企業を買収して、ホライズンが運営する原発を建てようとしています。原発を輸出・建設するためには、技術力が必要です。その意味でも、財界と安倍内閣は、国内の原発を再稼働させて、技術者を育てたい。原発の輸出と再稼働はセットなのです。
岩根
安倍首相は「死の商人」であり、「死の灰の商人」ということになりますね。さて、そんなアベノミクスですが、第1の矢「大胆な金融政策」について、どう考えておられますか?
二宮
結論から言えば「ドーピング型のルール違反」です。使ってはいけない薬物でバブルを引き起こすやり方ですね。日銀の量的緩和で、確かに株価や地価が一時的に上昇し、一部の富裕層と住宅投資などが潤いました。しかし労働者の賃上げにはつながらないので、消費不況はそのまま。むしろ物価が上がって生活はさらに厳しくなった。「不況を克服する」という的には、矢は届いていません。
岩根
第2の矢、「財政政策」ですね。これは端的に言うと大胆な公共投資、国土強靭化などが典型的だと思うのですが。
二宮
これはまさに昔の自民党がやって来たことです。田中角栄以来の「日本列島改造」的な、公共事業のばらまきですね。何しろGDP500兆円の内、13年度のみで前年度の補正予算を含めて10兆円もの公共事業予算を組んだ。今世紀に入って最高水準です。確かに、これで建設業界を中心に一時的には景気が良くなる。しかしこれはアベノミクスの矢ではなくて、誰がやっても同じ結果。土建国家への逆戻りで、国債という名の借金が積みあがるだけ。将来世代にツケを回しているだけです。
岩根
第3の矢、「成長戦略」については?
二宮
これが最後の切り札として宣伝されています。円安状態を作り出し、大企業の輸出を伸ばして、景気を浮揚させるということですね。しかし大企業は、すでに海外に生産拠点を移していて、円安になっても輸出は伸びません。トヨタやパナソニックなど自動車や家電は、企業としては儲かっても、国内での設備投資は行わないのです。従って失業率も改善されないし、賃金も上がらない。それどころか「国家戦略特区」を実験台として企業の直接雇用をなくして、すべて間接雇用、つまり企業が雇いたい時だけ雇用できるように労働者派遣法を改悪しようとしています。そうなれば日本中ブラック企業だらけになります。安倍首相は「日本を世界で一番企業が活動しやすい国にする」と言ってます。これは裏返せば、「日本は世界で最も簡単に企業がクビを切れる国」になるということです。
岩根
まさにその方針の通りに、消費税が引き上げられ、大企業減税が狙われています。国民からは容赦なく税金を取り立てながら、内部留保が積みあがっている、つまり大儲けしている大企業の税金を負けてやるというのですから。
二宮
8%への引き上げで、約5兆円の税収が見込まれます。しかしその中から高齢者医療など社会福祉に関わる新規事業にはどう見積もっても1000億円しか回らない。元々消費税増税は「社会福祉に充てる」という理由だったでしょう?これは明確な公約違反ですよ。
岩根
今まで所得税などでまかなってきた社会福祉への予算を別の分野に回して、足らなくなった分を消費税でまかなうので、新規事業の拡大はほとんどないということですね。安倍内閣は消費税増税の前に社会保障費を2.5兆円も削っています。お金には色がついていないので、消費税を増税しても借金の返済と大型公共事業に消えていくということですね。
二宮
そうです。社会保障に回ってこないことに加えて、消費税が加算された分を値上げできないので、倒産する中小業者も出てくるでしょう。輸入価格が上昇している中で物価だけが上がり、中小業者が倒産していけば、さらに失業者が増えます。国民にとっては極めて厳しい1年になりそうです。