「あと2週間待ってください。ここは保育園の菜園です。園児が育てたサツマイモが植わっているんです!」。門真市北巣本保育園の松本剛一理事の声が怒りに震えている。芋畑に横たわり、必死で阻止しようとする保護者たち、そんな中、約100名の大阪府職員が粛々と土地を「収用」していく…。
2008年10月16日、大阪府による行政代執行の模様をテレビでご覧になった方も多いだろう。保育園児たちが心待ちにしていた芋ほり交流会は10月31日に予定されていた。しかし橋下知事は、無情にも「2週間が待てずに」土地を収用してしまったのだ。
インタビューで知事は、「(第二京阪道路の)工事が遅れれば2週間で6〜7億円の損害が出る。どうして芋ほり交流会を2週間早めていただけなかったのか」とコメント。
しかしこのコメントは通らない。実は松本理事は、強制収用を不服として大阪地裁に対して「収用採決の取り消し」と「執行停止」を申し立てていた。菜園が取り上げられた10月16日は、まさに裁判中の出来事。「執行停止申し立て」の即時抗告についての大阪高等裁判所の決定は10月30日に下された。
つまり「2週間待てなかった」のは、知事のほうなのだ。
知事は「園児の涙を利用して収用に反対するのは一番卑劣な行為」ともコメントした。
でもちょっと待って!08年4月17日、大阪府の市町村長を前に「僕だって一生懸命頑張っているのです」と、涙したのは知事ではなかったか?
そもそも「楽しみにしていた芋ほり交流会」が無理やり中止にさせられ、親しんできた畑を奪われたのは、園児なのだ。悲しくて涙を流すのは当たり前だし、その園児の涙を見て、保育士たちが「悔し涙」を流すのもまた、自然な感情ではないか。
子どもが笑う大阪、を公約にして当選した橋下知事だが、実行するのは「子どもが泣く」ことばかり。
そもそもこの「第二京阪高速道路」、写真で見るように「巨大な公害道路」とでも言うべきもの。
道幅80メートル、高さ30メートル、3層構造になっていて3階には6車線の高速道路、2階は4車線の一般国道というから驚く。今さらこんなバブリーな道路が本当に必要なのか?という当然の疑問がわいてくる。国は当初一日8万台の車が通過すると予想していたが、景気低迷&少子高齢化社会を勘案し、4万7千台に下方修正した。
「4万7千台という予想も信じがたいですね。今後は人口が減っていく時代、地球温暖化に対する対策が必要なときに、この巨大な道路にそれほど需要があるとは思えません。これも無駄な公共事業ではないでしょうか」と前出の松本理事。門真市のような人口密集地で、このような巨大道路ができると、大気汚染も心配だ。
「この図面を見てください。あの菜園のうち、道路本体にかかる部分はわずかで、大半は副道と一般国道からの下り口になるのです。北巣本地区の前後250メートルの所にも各々下り口ができる予定ですから、なにもこんな短いピッチで3箇所も下り口を作らなくても良かったはず。何か『菜園を狙い撃ち』にしたような計画です。」
確かに松本理事が言うように、問題の土地を収用しなくても、道路はできる。
この問題を取材して、さまざまな疑問が浮かぶ。整理すると、(1)そもそも第二京阪道路は必要なのか?(2)必要だとして、あれほど巨大な道路にするべきなのか?(3)問題の土地に、わざわざ副道を作るのはなぜ?(4)こうしたことを疑問として、土地の所有者が裁判をしていた最中に、強制収用したのはなぜ?
橋下知事のコメントにも多数の「?」がつく。保育園の菜園を取り上げたり、私立高校への助成金を減らしたり、吹田市の国際児童文学館を廃館にする一方で、箕面市の「水と緑の健康都市開発」や「安威川ダム建設」、御堂筋のイルミネーションなどは積極的に進める橋下知事。その正体は「子どもを泣かせ、政府や財界を笑わせる」知事であるようだ。