SUITA市民しんぶんVol.2(2006)
「やったー!投票率が50%を超えたぞ」。3月12日(日)午後4時、山口県岩国市は喜びの声に包まれていた。米軍基地拡張の問題に対して、住民投票が行われ、その投票率が50%を超えたので、開票されることになったからだ。開票結果は基地拡張に反対が87・4%、賛成はわずか10・8%だった。
岩国市の住民投票は市長が発議したもの。「岩国市にとって大変重要な問題。こんな重大な問題こそ、市民に聞いてみなければいけないと思った。だから住民投票を実施したのです」とは伊原勝介岩国市長。住民投票の告示日3月5日に「市長緊急声明」が発表されている。それには「市民の意思はすべてに優先します。私は住民投票の結果を尊重し、誠意を持って国と交渉することを誓います」とある。
いうまでもなく、市長は市民に選ばれた存在。国が決めたわけでも、まして米軍が任命したのでもない。「自分を選んでくれた市民の声を聞く」という自然な方法、それが住民投票だった。
米軍基地周辺の町を歩く。戦闘機が離陸準備に入っている。ゴーという爆音。会話が途絶え、テレビの音がかき消される。米軍宿舎から一本道が延びている。周囲にはロシア人パブ、フィリッピンショーなどの看板。英語と日本語で「駐車禁止」の張り紙。停まっている車は米兵が運転する「Yナンバー」だ。クリーニング屋さんや八百屋さんに聞いて回る。
「昔は米兵が下着を出してくれたり、背広をクリーニングしたり、繁盛したときもあった。今はダメだね。全部基地の中でできるもの。フィリピンパブ?あそこも苦しいよ。最近の米兵は、広島まで遊びに行くからね。地元には金は落ちない」。
昼は喫茶店、夜はバーになる店がある。マスターに聞く。
「私のところにもほとんど米兵は来ないよ。地元の人間ばかり。この街で生まれ育ったから基地があるのは当たり前だと思っている。昔はにぎやかだったね。米兵相手のコールガールが川筋に立って客引きをしていたよ。親父からは『あっちへ行くな』と注意されていたね。ここは広島から流れてきた被爆者が多い。被爆者たちは人生に悲観し、『あと少ししか生きられないから』と米兵相手の商売に精を出していたんだ。岩国市役所に売店があっただろ?あそこは昔の保健所だ。性病の検査をしていたんだよ」
拡張予定の基地へ。広大な敷地。海を埋め立ててさらに新滑走路が建設されている。この基地拡張工事をめぐって防衛庁の官製談合や天下りがあったことは記憶に新しい。神奈川県厚木基地から艦載機がやってくると、ここは沖縄の嘉手納を上回り、東洋一の基地となる。
住民投票を終えたばかりの井原市長を直撃。
国や山口県などの圧力があったと思いますが、それでもあえて住民投票を実施されたのはどうしてですか?
「私のモットーは『難しい問題が出てきたときは、自然な状態で考える』ということです。基地拡張は岩国市にとって非常に難しい問題。こんな時は住民の意見を直接聞こうと思い、住民投票を実施しました。そこで出た市民の声を国に伝えるのが私の役目です」
吹田市でも住民投票が行われようとしています。吹田市長は「反対のための反対者とは会わない」などといって住民投票に否定的です。
「住民の中にはさまざまな意見があります。反対の人とも賛成の人とも合ってじっくり話を聞く。それが私のやり方です」。
投票率を50%に届かせないように、「住民投票ボイコット運動」もありましたね。
「住民投票に反対の人は、何かに恐れているのでしょうか?国から何か言われるとか…。こんな大切な問題こそ、憶測や恐れをいったん捨てて、市民の意思を聞くことが必要だったのです。意見が分かれていれば、それを踏まえて国に対して公正な市民の意思を伝えればよいのです」
一方、わが吹田市では?梅田貨物駅の吹田移転の是非を問う住民投票に関して、1月末から2月にかけて取り組まれた署名は4万筆を超えた。3月中にこの署名が審査され、順当に行けば4月に開催される吹田市臨時議会で、この「住民投票条例案」が、採決される。吹田市の市議会議員は36名。つまり18名以上の賛成があれば吹田市として初めての住民投票となるが、否決されれば「勝手に決められたまま」となる。今年開港した神戸空港は30万筆以上の署名を添えて神戸市議会にかけられたが、当時の議員の多くが住民投票に反対し、結局神戸市民の意思を問うことなく、空港が作られてしまった。「関空、伊丹があるのに、なんで3つも空港がいるの?」「空港に市税をつぎ込むより、震災被災者の生活に充てて」などの悲痛な叫びが無視された。
一方、わが町吹田はどうだろうか? 以下、阪口市長の「語録」。
阪口市長 「反対のための反対者とは会わない」(毎日新聞より)
市長という全ての市民の代表という立場にありながら、一部の人のためだけに吹田市を運営されるのか?
阪口市長 「議会と市民の意思が離れているとは思わない」(関西TVインタビューより)
市としての最終決定を報告した市議会全員協議会は、市民に非公開。ほとんどの議員は合意文書に対して「沈黙」。つまり「議会の意思」は示されていない。これでどうして「議会と市民の意思が離れているとは思わない」と言い切れるのか?
阪口市長 「私にはサイレントマジョリティー(物を言わない多数派)が支持している」(毎日新聞より)
どうして「支持している」と言い切れるのか?4万人もの署名協力者こそ「マジョリティー」ではないのか?
阪口市長 「関係5者との経緯があるので、(受入れを)決定した」(吹田市議会全員協議会より)
多くの市民の声よりも、大阪府やJRの方が大事なのだ。
さて吹田市はどっちの道を選ぶのだろうか?たとえ相手が国や米軍であっても、住民投票を実施し、「白紙撤回」が視野に入り出した岩国市と、採算の取れそうもない空港を作ってしまった神戸市と。キーワードは岩国市長がすでに述べている。「市民の意思は全てに優先する」ということだ。