千里丘戦争…。マンションや戸建建設業界が、吹田市千里丘地域を相次いで開発し、競うように販売合戦を繰り広げて、はや数年。吹田市が乱開発に対して規制をかけてこなかったため、緑豊かな千里丘地域は、マンション業界の「草刈り場」となり、いつしかこの地域での開発競争は「千里丘戦争」とまで呼ばれるようになった。明けて2007年、この「千里丘戦争」の仕上げというべき、大規模開発が進行中だ。日生団地の森と毎日放送。双方合わせて約30ヘクタールという緑が今、削られようとしている。
「ま、毎日放送の、上り坂、は、きつい、っすね」。フーフー言いながら私たちチャリンコ部隊は急坂を上り、毎日放送敷地内の「千里の湯」へ。入り口に「千里の湯は平成18年12月31日をもちまして閉店いたします」との看板。
「この広大な敷地が売却されて、マンションになるっていうウワサ、本当のようですね」「千里の湯の源泉、1千メートル以上も掘ったのに、これもパーですね」「このウルトラマンはどうなるのかな?」
報道によると、13ヘクタールの敷地が、開発業者に売却され、数百戸のマンション、戸建、老健施設などに様変わりするという。
「ミリカプールも終わりですね」「私、あそこでスケートしたのが良い思い出やったのになー」。毎日放送本社屋はもちろん、千里の湯をはじめ、放送文化館、ミリカプールなど「思い出深い場所」がすべてなくなろうとしている。
緑のネットワークルートが
工事のネットワークルートに
毎日放送の南西には、フォレストシティーという巨大マンション。実はこの土地は旧富士銀行のグラウンドだったが、金融ビッグバンに伴うリストラで、このような「社員福利厚生施設」が売りに出された結果、この巨大マンションが建設された次第。このフォレストシティーの隣に1枚の「開発予告掲示板」が。
「ここは徳州会病院になるようですね」「徳州会って、あの腎臓で有名になったところやね」「地上13階建ての大きな病院になるようですよ」
病院が建つこと自体は便利になっていいのだろうが、前面道路が広くないので、救急車などの通行に支障をきたさなければいいのだが…。
徳州会病院予定地の横に、細い「緑のネットワークルート」と書かれた細い道。この「緑のネットワークルート」をチャリンコで走る。
森ひとつ分が消える
キツネはどこに行ったのだろうか?
「うわっ、この山、ほとんど全部削られて、何か建つようですよ」「ここが日生団地の森や。全部で約10ヘクタールの広大な社宅含めた山林が、マンションと戸建住宅に開発されてしまうんや」「この日生団地の森にはキツネが住んでいたそうですね。キツネはどこかに逃げていったのかな?」「この道、『緑のネットワークルート』と銘打ってますが、両サイドは工事現場になりましたよ。これでは『工事のネットワークルート』やないですか」。
山を削ってマンションが建つ
写真で見るように、無残にも山が削られ、大規模な整地工事が進行中だ。
「あれ、これはひどい!山一つ分が更地にされてますよ」。吹田市東消防署の看板の向こうに大きなクレーン車と、「大自然に囲まれた癒しの空間」というマンションの宣伝看板。ブルドーザーで山を削っておきながら、「大自然に囲まれた」もないだろう。
歩道橋が取りはずされ、通学路は回り道に
「あそこの歩道橋が取り除かれているやろ。この工事のために通学路が使えなくなったから、児童は迂回路で通学しているんや」「町の風景が一変してますね」「南山田小学校の校区ですが、果たしてこれだけ大規模なマンションや戸建分譲が来たら、小学校パンクするんと違いますか?」「だから行政が規制をかけて、緑を削らないですむ解決策を提示すべきやったと思う。現在の市長になってから8年、吹田では大規模開発がストップしたことがない」「そやから『千里丘戦争』になったんですね」。
千里ニュータウンや万博公園は、開発後に植樹した、いわば「人工の森」だ。
しかしこの日生団地の森は昔ながらの「自然の里山」だった。子どもたちのためにもキツネが生息する環境を、残すべきだったのでは?