2007年11月、吹田市は「吹田操車場跡地まちづくり全体構想」を発表した。
上図だけを見ると、JR岸部駅前に大学や病院がやって来て、吹田市がどんどん発展していくかに思える。しかしちょっと待ってほしい。「教育文化創生ゾーン」というが、本当に学術機関がやってくるだろうか?関西大学は大阪医科大学、薬科大学などと提携し、2010年4月に高槻に新校舎を作ることを発表した。大阪大学は箕面市にある大阪外大と合併。吹田に存在する2つの大きな大学が、吹田以外の街に出て行こうとしている。ましてや時代は少子高齢化。大学が倒産する時代に入っているのだ。
「医療健康創生ゾーン」についても同様。茨木市の彩都は、バイオ産業や医療機関、製薬会社の誘致を行い、「ライフサイエンス都市」が売りであった。しかし計画はどんどん縮小され、街は開いたものの、閑古鳥鳴く彩都のために、茨木市は大きな負債を抱えている。神戸市は、無理やり造った神戸空港のそばに最先端医療技術を集積させ、「神戸医療産業都市構想」をぶち上げたが、ご存知のように関空、伊丹、神戸と狭い地域に3つも空港を作ったため、医療機関どころか、空港そのものも存続できるかどうか怪しい事態になっている。
そう、大阪市のWTCやATC、大阪府のりんくうタウンの例を出すまでもなく、行政が「バラ色のまちづくり計画」を立てたものの、見事にずっこけて、後の世代に負担を残してきたのが、これまでのパターンなのだ。
「吹田操車場跡地のまちづくり」は、区画整理事業方式で行われる。従来までは「吹田市がJRから土地を買い取った後に、再開発」であった。いつどこで区画整理事業方式に変わったのだろう?
区画整理事業方式では、事業者が(この場合はUR)が再開発して土地の値段を引き上げる代わりに、土地所有者(この場合はJR)に土地を供出させ(減歩という)、保留地を生み出し、それを売却して事業費に充てることになる。
つまり、跡地に高層ビルが建ち並ぶように開発しなければ、保留地が売れない。岸辺地域にやってくる高層ビルも、学術機関や医療機関なら良いが、それらがやってくる保証はない。むしろ長い間売れずに塩漬けになり、結局パチンコ屋やサラ金が入った、などという事態になりかねない。
さらにこの事業は「補助金」で成立する。国や府、そして吹田市の税金が注ぎ込まれる予定だ。
吹田操車場は、大正年間に、時の天皇制政府が、吹田や岸部の農民から土地を奪い上げて造成した東洋一の操車場だった。その役割を終えた今、土地は元の持ち主に返却すべきではないか。
元の持ち主とは、吹田市民だ。
さらに大きな問題がある。このまちづくり計画は、梅田貨物駅移転と公害道路の建設という「吹田市民の公害被害」という犠牲の上に成り立っている。
例えば、貨物駅を受け入れることと引き換えに、「操車場跡地を吹田市に払い下げさせる」という交渉は無理だったのか?土地が行政のものになれば、そこを「緑あふれる防災公園」にすることも可能だろう。吹田市長が、あまりにも「安々と」受け入れたことで、将来に禍根を残さねば良いのだが…。
吹田市南部は、もともと住宅密集地で緑の少ない地域だ。地球温暖化やヒートアイランド現象が叫ばれる昨今、市民に残された貴重な土地は、緑の公園にしてほしい、というのが大多数の声だ。(吹田市実施のアンケート結果)
これから日本は人口減少の時代に突入する。にもかかわらず、各地で次々と新築マンションや商業ビルが建っていく。本当にそれだけたくさんのビルが必要なのだろうか?バブル期に日本全国の駅前で、行政が同じような再開発の図面を引いたため、同じような駅前の風景になった。
駅を降りたら、緑の森が広がっている、そして森の中には大正期から日本の物流の中心をになってきた操車場の歴史が刻まれた博物館や、遺跡の展示がある。「緑の散歩コース」があり、そこをジョギングする人、犬を連れて歩く人、デートするカップル…。そんな「再開発」は夢のまた夢なのだろうか…。