統一地方選挙が近づいてきた。今回の選挙、民主党政権の行方を占うものではあるが、同時に大阪の未来を決める選挙でもある。
その鍵を握っているのが、「ワン大阪」「大阪都構想」をぶち上げる大阪府の橋下知事だ。そして、知事が代表を務める「大阪維新の会」である。
橋下知事は大阪府民に絶大な人気がある。彼こそ大阪を救う改革者だと信じる府民は少なくない。大阪都が完成すれば、この大阪にバラ色の世界が広がると夢想する者もいる。そのため、統一地方選挙は橋下派に有利な戦いが予想されている。
その橋下知事、彼は一体なにを目指そうとしているのか。880万人の大阪府民をどこへ運ぼうとしているのだろうか。大阪都構想を掲げる橋下知事は、大阪という都市を統一するため、大阪府や大阪市を本気で潰そうとしている。いや、大阪市だけではない。この吹田市だってマナ板に乗っている。知事派が選挙で勝利すれば、わが街・吹田市も無傷ではいられないのだ。
さて、「大阪都構想」の中身はどのようなものなのか、ここでその概要を見てみたい。
大阪都は、外形的には東京23区とほぼ同じものである。大阪府と大阪市、あるいは吹田市や豊中市などの府下周辺市を吸収合併し、大阪都という広い地域を受け持つ広域行政体に統一する。大阪都は広い範囲の行政を受け持つので、港湾や空港、鉄道、高速道路といった社会インフラの整備、また企業誘致など産業基盤の拡充に専念することになる。
つまり、大阪都はもっぱら、都市計画にかかわる大規模事業を受け持つので、これまで大阪市や吹田市が手がけていた大きな事業などは都が引き継ぐことになる。いまは大阪市内を網の目のように走る大阪市営地下鉄も、大阪都が設置されると都営地下鉄に生まれ変わるか、民間に売却される可能性が高いはずだ。
一方、大阪都の下には基礎自治体というものが並ぶ。この基礎自治体は約20の特別区から構成され、吹田市は「吹田区」として生まれ変わることになる。基礎自治体である特別区は、住民票の交付や福祉、保健行政・教育といった区民サービスに徹し、基本的に大規模な公共事業などは行わない。区と区にまたがる道路事業などは、大阪都が受け持つことになるだろう。
ただし、口では大阪都は広域行政を受け持つと綺麗事を言っても、さて本音はどうなのか。実は、これが自民党流のゼネコン型大型開発と変わらないのである。橋下知事もしきりにカジノ誘致を口にしているが、万が一、大阪にラスベガス級のカジノが誕生するとなれば、当然、ホテルや道路の建設ラッシュが始まることは間違いない。結局、湾岸開発にしてもカジノにしても、あるいはその他の社会インフラの整備にしても、儲かるのはゼネコンと銀行、そして一部の政治家という図式なのである。
橋下知事や大阪維新の会は、大阪都は二重行政を解消する最高の手段だとしきりに宣伝する。確かに知事が言うとおり、大阪府と大阪市が再編すれば司令官は1人、財布も1つなのだから、形の上では二重行政はなくなるだろう。だが、大阪都にぶら下がる約20の特別区は中核市並の予算と権限を持ち、かつ自治権も有しているという。つまり、住民サービスのために図書館やプールを作るのは、特別区の自治、住民の自己責任に任せるということだ。となれば、たとえば旧大阪市内に登場する8つの特別区が、勝手バラバラに、やれ図書館を建設しろ、それ病院を作れと言い出しかねない。これでは二重行政の解消どころか、何重行政になるか分かったものではない。
予算だって、どうなるか分からない。現在、吹田市の予算は約1千億円。地方交付税交付団体になりはしたが他市に比べ、税収も比較的豊富で財政状況も良好である。
ところが大阪都になれば、吹田市が稼いだ税収は一旦、大阪都に吸い上げられる。都が吸い上げた税収は特別区に再分配すると知事らは語っているが、どのように、またいくら配分するかまでは不明。あろうことか「詳細な制度設計は後で決めればいい」という態度である。しかし、親分である大阪都が稼がなければ、子分である特別区に十分な予算が回ってくる道理などない。良くて現状のまま、下手をすれば現在の財政水準を下回る可能性も捨てきれないのだ。もしそうなれば、「入りが少ないのなら、出を制限すればいい。経費などの歳出カットに励め」と都知事が言い出すに決まっている。その結果、被害を被るのは住民なのである。
少し調べてみるだけで大阪都構想は絵に描いた餅どころか、実は、吹田市のような比較的元気な自治体を衰退させる要素を含んでいることが分かってくる。この統一地方選挙、一時的な熱狂ムードに流される愚だけは避けたいものである。