村上 雅行(父)さん | 村上優子さん過労死裁判原告 |
村上加代子(母)さん | 村上優子さん過労死裁判原告 |
前田 博史さん | 吹田市職員労働組合執行委員長 |
前田本日は、7年前に最愛の娘さんを過労死で亡くされ、現在、過労死認定裁判を闘っておられる南吹田在住の村上さんご夫妻をお招きしました。村上優子さんは吹田市の国立循環器病センターで看護師として働いておられました。私も吹田市民病院で働いておりましたので、医療現場の過酷な状況については、一応理解しているつもりです。優子さんが高校を卒業され、「看護師になりたい」とおっしゃった時は、ご両親としてはどんなお気持ちでしたか?
前田国立循環器病センターの過重労働が原因なので、当然相手方は国、つまり厚生労働省ですね。
村上(母)厚労省は、「娘の死亡原因は公務災害ではない」と主張しました。病院側に責任はない、と。過労死を予防するよう、民間企業を指導する立場にある厚労省の病院で過労死があった、なんてことになると国のメンツもあり、必死だったと思います。結果、民事では最高裁まで行って、敗訴。
村上(父)過労死認定基準とされている毎月80時間以上の残業がないと、認められないのです。国は「16時間しか残業させていない」と主張。結局裁判では、原告である私たちの主張を48時間しか認めず、「80時間の壁」を越えられませんでした。でもね、これは現場を知らない主張なのです。看護師は残業時間をつけることのできない仕事を日常的に行っています。
前田勝手に亡くなったんだと。
村上(母)ええ。しかし娘は、例えば日勤で朝8時から夜8時まで12時間働いて、そのまま睡眠せずに夜勤をこなす、という生活だったんです。看護師としての仕事のほかに、看護研究発表、後輩看護師の指導などがあって、1人3役も4役もこなさねばならなかった。たまに実家に帰ってきても、ずっと眠っていましたよ。
前田確かに裁判所が理解してくれない「目に見えないしんどさ」があると思います。日勤勤務の後、深夜勤務に入るまで数時間しかない。なかなか眠れませんよ。亡くなられた当日も遅出勤務だったのでしょう?
村上(母)「娘が倒れた」という電話が私どもに入ってきたのは深夜1時半くらいでした。帰宅後すぐに倒れているのです。自宅マンションで薬を飲んだようですが、回復しないので救急車を呼び、意識がなくなって…。
村上(父)娘はパソコンを通じて、友人たちとメールのやり取りをしていたのです。亡くなる直前のメールには「とりあえず帰って来れました」「とにかく眠すぎる」など多くの「証拠」が残っていました。弁護士の先生も「このメールが証拠になる」とおっしゃってました。私は茫然自失でした。「そんなに疲れていたのか」「どうして気づいてやれなかったんだろう」と。
村上(母)メールには時刻が残りますから、帰宅時間から逆算すると、病院での勤務は、おそらく月に80時間を越えているのです。
前田しかしそれが書類に残らない。病院は予算が決められているので、残業をさせれば赤字になる。しかし仕事は定時には終わらない。それでサービス残業が日常化するのですね。
村上(母)普通の会社は予定が組めるじゃないですか。しかし看護の現場では、患者さんの家族から相談を受けたり、容態が悪化したり。突発的な仕事が入るので、予定はないですね。
前田この事件を教訓に、病院側の業務改善はありましたか?
村上(母)タイムカードの導入は見送られているようです。娘の現場では1名の看護師が増員されたと聞いていますが、状況は変わっていないようですね。毎年たくさんの看護師さんが辞められているようです。娘の職場では20人ほどの内、4〜5人ほど。亡くなった年には7人が辞められて、その分、娘への負担も大きかったのではと思います。
前田失意のどん底から、普通の市民が裁判を闘うことになったわけですが、最初は大変だったでしょう?
村上(母)裁判なんてテレビでしか見てませんでしたから、全然知識がなくて。しかし、娘が体験したことを、2度と繰り返してほしくない、と思いました。こんなにつらい思いをするのは私たち夫婦で最後にしてほしい、と。
前田過労死問題は、国立循環器病センターで働く人々はもちろん、医療現場で働くすべての労働者の、文字通り死活問題ですからね。
村上(母)私も現役の看護師ですから、職場に余裕がないことは体験しています。懸命に仕事して、家で寝て、また仕事。自分を振り返る余裕がないですね。
前田そんな労働条件を改善させるためにこそ、労働組合が必要なんですが。
村上(父)ところが、循環器病センターには労働組合がないんですよ。
村上(母)作ろうとした時期もあったようなのですが、結局無理だったようで…。本来そこに労働組合があれば、すぐに駆け込みましたよ。なかったので、過労死110番に電話したのです。その後約1年間かけて調査して、裁判に踏み切りました。弁護士の先生が、「医労連(大阪医療労働組合連合会)」を紹介してくださって、ここで初めて労働組合と出会いました。医労連の方々は「この事件を黙って見過ごしてしまえば、医療全体の大問題が解決しない」と、立ち上がってくださり、裁判勝利の大きな原動力になりました。
村上(父)判決は、原告に対して「遺族補償一時金を支払え」というもの。本当言うと、国に謝ってほしかった。娘は仕事によって死んだんです。金銭ではなく誠意を見せてほしかったのです。しかし今まで民事で5連敗でしたから、6度目にしてようやく勝利判決。正直、本当に良かったと感じました。
村上(母)大阪地裁の判決は、夜勤の過重性を認めた点で、画期的です。この判決が確定したら過労死の認定基準も変わったでしょう。しかし国は控訴してきました。民事裁判では最高裁が国の過失を認めなかったので、国としては、とことん上まで持っていくつもりなのかもしれません。
裁判って、一般的に地裁より、高裁、最高裁とあがるにつれ、国に遠慮するでしょ。もともと民間病院と国立病院では裁判の基準が違うのです。国に不利な判決が出にくい。しかしなぜ被害家族が6年も7年も裁判をしなければならないのでしょう。
厚労省のお役人さんたちは、現場を知らずに控訴される。彼らは人事異動ですぐにどこかの部署に変わられるのかもしれませんけど、私たちにとっては人生をかけた問題なのです。
前田昨年は、消えた年金問題、C型肝炎の薬害問題など、はからずも厚労省の「無責任体質」が白日の下にさらされました。社会保険庁の職員も一生懸命がんばっておられるのでしょうが、トップの官僚と政治家が癒着して、ずさんな対処に終始しています。
大阪府でも救急医療の不足から、患者さんが救急車でたらいまわしされる事件も起きています。高級官僚の天下りなどをやめさせて、その無駄に使っている税金を医療現場に回して、職員体制を充実させてほしいですね。
村上(父)この裁判で勝利することが、医療現場職員の体制を充実させ、市民の命を守ることにつながると思います。舞台は大阪高裁に移り、今年の6月17日から公判が始まります。
「看護師・村上優子さんの過労死認定・裁判を支援する会」では、国の不当な控訴に関して、棄却を求める署名に取り組みます。前回、大阪地裁には4万筆を超える署名を裁判所に提出し、それが勝利の呼び水となりました。
村上(母)署名してくれた人は、医療関係者が多かったのです。みんな他人事ではなかったのではないでしょうか。循環器病センターは吹田市にあります。地域の人々も安心して診察を受けられるような病院であってほしいと願っています。そのためには必要な部署には予算をつけて、職員体制を整えていってほしいのです。
前田大阪府では橋下知事になり、何もかも予算削減の雰囲気が充満していますが、人の命を守る現場こそ大事であって、無駄ではありません。
安心して暮らせる街を作っていくという意味でも、この裁判、なんとしても勝利してほしいと願っています。巨大な相手方を、もう一歩のところまで追い込んでいます。
国に過労死を認めさせて、二度と悲しい思いをされる方が出てこないように、そして患者の立場からも、職員の皆さんが元気に仕事を続けることができるように、私たちも全面的に支援していきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。