医療や難民の保護より政治家や官僚へのワイロ資金に
今年2月、9度目のアフガン取材を敢行した。首都カブールは20年に1度の大寒波に見舞われていて、気温は何とマイナス20度まで下がり、大雪で空港は閉鎖された。凍える大地に避難民キャンプのテントが並ぶ。あまりの寒さで、子どもがたくさん死んでいた。低体温症と肺炎、そして大やけど。日本からの支援50億ドル(約4000億円)は、避難民キャンプにも病院にも届いていなかった。
劣化ウラン弾の影響と思われる甲状腺ガンの少女
カブールから北西へ約7 国道沿いにチャライカンバーレ避難民キャンプが広がる。泥でできた急ごしらえの家が並び、天井はテントシート。そのシートの上に雪が覆いかぶさっている。昨晩からの大雪で、国道はチェーンを巻いた車で渋滞している。物乞い女性たちが雪の上に座り込み、渋滞した車に向かって手を差し伸べている。白い雪に青いブルカ、足元を見れば裸足にサンダル。氷結した雪の上に座り込みながら、彼女たちは毎日8時間、こうして金を恵んでくれる人を待つ。
—寒くないですか?
「もちろん寒いわよ。でも他にどうしろというの?子どもを食べさせるためには、ここで物乞いするしかないのよ」
アジナーさん(22)には、3人の幼い子どもがいて、夫とは生き別れた。
—なぜ夫がいなくなったのですか?
「夫はイランにいるの。私と子どもだけアフガンに戻されたの」
彼女たちは、アフガン戦争が激しくなって、イランに逃げた。当初イランはアフガン難民を受け入れていたが、米国とイランの間に濃縮ウラン問題=核兵器開発問題が発生。国際社会はイランに対し、原油輸入制限などの経済制裁を行った。経済的に余裕がなくなったイラン政府にとって、アフガン難民はお荷物になった。そしてイラン政府は、難民たちの永住を認めず、アフガンに追い返すようになった。その時、夫はイランで仕事を見つけていた。アフガンに帰りたくない夫だけイランに残り、行方不明となった。彼女と3人の子どもは、カブールに戻ってきた。家も仕事もない生活が始まった。
「この雪がテントの中に入ってきているの。雪が溶けて家の中はビシャビシャ。子どもは風邪をひいているし、せめてパンを確保しないと」
雪の中で物乞いするしかない
「とても寒くてつらい。でもここに座るしか方法がないの」。杖を持って座り込んでいる、年配の別の物乞い女性が、ブルカの中で泣き出した。
物乞いによる一日の収入は、100アフガニー程度(約200円)。辛うじて一日のパンを確保する。子どもたちが生きていけるギリギリの生活だ。
インタビュー中も吹雪は容赦なく顔面に吹き付けてくる。ヒートテックのシャツとズボン下を2枚重ねにして、ジャンパーにマフラー、「完全武装」の私だったが、それでも身体が芯から冷え込み、ビデオカメラを回す指先は凍りつく。彼女たちは薄いブルカに素足。このままだと子どもはもちろん、彼女たちも死んでしまうかもしれない。絶望的な状況だが、彼女たちに国連はもちろん、カルザイ政権からの支援はない。
貧しい家庭では地面に穴を掘って釜にする
釜に落ちて大やけどした赤ちゃん
カブール市内にあるインディラガンジー子ども病院は、いつ訪れても驚く事ばかりだ。特に厳冬の季節、「やけど病棟」は、この世の地獄といえる状況だ。
重症の赤ちゃんが弱々しく泣いている。生後10ヶ月の女の子。両手両足の指が黒ずんで壊死している。17日前にここへ運び込まれてきた。
「この子の両手両足はすでに細胞が死んでしまっている。全て切断する」担当医師の言葉に慄然とする。
アフガンの貧しい家庭では、台所はなく、地面に穴を掘って湯を沸かし、パンを焼く。氷点下20度の世界で、暖房といえば、そのパン焼き釜しかない。あまりにも寒いので、はいはいができるようになった赤ちゃんは、暖かい火の方へにじり寄っていく。母親は小麦粉をこねてパンを焼く準備をしている。夕食前の忙しい時間帯、我が子を見ている余裕はない。赤ちゃんが地面に掘られた穴の上まで這って来た。穴の中では薪がパチパチと音を立て、赤い炎がチロチロと舌を出している。さらに暖まろうとして…。燃え盛る火の中に落ちた。落下した際、両手両足で踏ん張ったので、四肢の先から焼かれていった。
取材中に新しい患者が運び込まれてきた。ワリーグちゃん、生後11ヶ月の女の子。重篤な肺炎患者で、大やけどを負っている。
「釜に落ちた。昨夜だ」。医師はワリーグちゃんの着衣をめくり上げる。彼女の小さな胸とお腹が、呼吸の度にペコッ、ペコッと音を立ててへこむ。右目はやけどでつぶれている。呼吸困難で泣くこともできず、開いている左目で、ただじっと私のカメラを見つめている。
ひとつの保育器に2人の未熟児が眠る
4日後この病室を訪れた。あの赤ちゃんの手足は切断されずにすんだ。2人とも亡くなって、ベッドにはいなかった。
その後、がん病棟や集中治療室などを取材し、病院の外へ出る。病院の外壁が、ピンクに塗り替えられている。「必要ない工事ばかりしているよ」医師がつぶやく。
やけどの治療薬も、未熟児のための保育器も、全然足らないのに、なぜ外壁塗り替え工事だけ?
ワイロ政治だ。日本などから支援金が入る↓カルザイ政権は、建設会社に工事を発注↓不必要な工事を繰り返すことで建設会社が潤う。↓その工事費の一部が政治家や官僚にキックバックされ、ワイロに化ける。
病棟の外壁だけが塗り替えられていた
カブールのあちこちで道路工事やニュータウンの建設工事が進行中だ。米軍からアフガン軍へ治安権限が委譲されるため、日本から多額の支援金が、軍や警察の給与になる。しかし避難民キャンプや、物乞い女性たち、病院には回って来ない。
この点について、私は外務省の担当者に実情を訴えてきている。しかし「アフガンの治安が悪いので」、JICAも外務省も、満足に現場を見ることなく、ただ粛々と援助予算を、カルザイに与え続けている。日本の支援金がどのように使われているか、監視と是正が必要だ。