消費税引き上げに突っ走る野田内閣。巷には「約束と違うやないの」「騙された」という怨嗟の声やため息が充満しているようだ。あの政権交代は一体なんだったのか?そんな時代の閉塞感から「強いリーダー」「決定する政治家」を求める声が高まっている。時代の波に乗り、人気絶頂に見える橋下大阪市長。「何か変えてくれそう」「一度、この社会のシステムをぶっ壊してほしい」
確かに国も、大阪府、市の財政もピンチである。なぜ大赤字になったかというと、バブル崩壊後も軍事費や無駄な公共事業などに、税金をジャブジャブと突っ込んで来たからである。高級官僚の天下りや、大阪湾岸開発などはいますぐストップさせて、「出を削る」ことが必要だが、ここでは「入りを増やす」ことについて考えてみたい。
野田内閣は、少子高齢化社会のもとで、このまま放置すれば年金、医療など社会保障が立ち行かなくなる、と消費税を10%に引き上げようとしている。
ちょっと冷静に事態を見てみよう。
国家財政の基盤となるのは、所得税、法人税であるはずだ。実はこの所得税、法人税は、消費税導入時(89年)と、3%から5%への引き上げ時(97年)に、高額所得者への税率引き下げ、法人税の減税がセットで行われたのだ。
グラフ(1)を見てほしい。本来、所得税は年収が増えれば増えるほど、つまり大金持ちほどたくさん負担してもらうのが原則だ。
ところが前述したように、「大金持ち減税」を行ったため、年収1億円の階層をピークに、年収5億、10億、100億の「億万長者のみなさん」は、負担率が下がっていくのだ。
これは明らかな「不公平税制」である。国家財政が足りないのなら、まずこの「億万長者のみなさん」から相応の所得税を徴収すべきだ。
実は、橋下大阪市長は、決してこの「億万長者たち」を攻撃しない。彼が攻撃するのは、年収600~700万円の「隣の公務員」だ。
(グラフ(2)右の矢印)
橋下市長の公務員バッシングに拍手を送っているのが、年収150~200万円の非正規雇用、特に若い世代の労働者たちだ。(グラフ(2)左の矢印)
本来、両者は不当に高い税金を払わされ、福祉や教育を切り捨てられているのだから、互いに団結し、「億万長者たち」に対して、「お前たちこそ、税金を支払え」と迫らないといけない。
しかし、橋下市長が「公務員、特に労働組合がけしからん」と、両者を団結させないことで、結局、得をするのが「億万長者たち」なのである。(マンガ(1))
この「億万長者たち」は読者のみなさんのように、汗水たらして働いていない。快適な部屋で、主に株式や証券、つまり金融資産を右から左に動かして、巨万の富を得ている。
グラフ(3)は、証券税制の国際比較。日本は欧米諸国に比べて不当に低い税率で、「おまけしている」のである。ちなみにこの税率は小泉政権で20%から10%へ引き下げられた。いわゆる小泉構造改革で、大金持ちはさらに豊かになり、中間層がワーキングプア、つまり貧困層にたたき落とされ、格差が広がったのだ。
消費税を引き上げる前に、せめて欧米並みの30%くらいは取るべきだ。
次にグラフ(4)を見てほしい。これは消費税が導入されてからの通算納税額と、法人税減税による失われた税額の比較だ。なんとなんと、消費税で収めた税金が、ほぼ大企業への減税でチャラではないか。
「消費税は社会福祉を充実させるため」という目的で導入されたし、引き上げられた。しかし肝心の税収が増えていないから、社会福祉が切り捨てられてきたのだ。
政府は今、「このままでは日本は破産する。ギリシャのようになってしまう。消費税は引き上げざるを得ない」と脅かしているが、この議論の前提となっているのが、「消費税を上げれば税収が増える」ということだ。本当にそうだろうか?
グラフ(5)は、実際にどうなったか、を示すもの。消費税率が3%から5%に引き上げられたのは、97年のことだ。引き上げと同時に、億万長者たちの税率や法人税率が引き下げられ、消費税が5%になったため、消費が冷え込み、デフレに向かったため、景気が冷え込んだため、深刻な税収不足に陥っているのだ。
こんな状態で、さらに10%に引き上げたら、おそらくこの国の経済は死に至ってしまう。消費税を転嫁できない中小企業はバタバタと倒産し、ワーキングプア層のみなさんは、路頭に迷い、ホームレスが急増するだろう。
ではテレビがなぜこれを伝えないか。それはテレビもまた、億万長者たちがスポンサーだから。
橋下市長は、市役所職員のメールを盗み見する、憲法違反の思想調査をする、あれだけ大見得を切っておきながら、原発再稼働を容認する…などなど、失敗続きであるが、メディアは橋下市長を叩かない。