2011年5月毎日新聞のスクープ記事「核のゴミをモンゴルに埋める?
「国境」のフェンスには一カ所穴が開いていた。深夜1時、オリーブ畑を歩くこと30分、とうとう「シリアへの入り口」にたどり着いた。数十メートル先にはトルコ軍国境警備隊の監視小屋。時折ピカッ、ピカッと監視小屋からの灯りが射し込む。ルパン三世みたいやなー。緊張で心臓バクバクなのだが、どーでも良いことが頭を巡る。暗闇の中、ハーハーという息づかい。難民の家族がぬっと現れた。頭に家財道具を乗せて、子どもの手を引き、トルコ側へと逃げていく。私は難民たちが逃げてきた方向、つまりシリアへと足を踏み出す。そんな「違法入国」で見た現実は…。
▲マルダイは首都から離れた遊牧民の村だ
▲モンアトムジャパンが提示する核廃棄物輸送ルート
「寒いなー。道路、かちかちに凍ってるやん」。首都ウランバートルは「世界で最も寒い首都」だ。11月で零下10度、1月はマイナス30度近くまで下がる日もある。
そんなウランバートルで車をチャーターし、東北東へ約700km、中国、ロシアとの国境地帯である「マルダイ・ウラン鉱山」をめざす。
道路は舗装されておらず、目印になる建物も何もない中、運転手のドルチョは「長年の経験とカン」だけで、大平原に刻まれたワダチを行く。東部の拠点都市チョイバルサンで一泊。さらにほとんど誰も住んでいない大平原を6時間ほどドライブして、ようやく「マルダイ・ウラン鉱山」に到着。
「ウランの露天掘り」だった。1996年まで旧ソ連がウランを採掘し、撤退。大きな穴に水が溜まり、その水が氷結している。ガイガーカウンターを地面に置くと、ピーピー、警報音が鳴り出して、0.4マイクロ。
産出されたウランは貨車でシベリアに運ばれ、濃縮加工された上で、シベリア鉄道で旧ソ連の各地へ送られた。一部はチェルノブイリなど原発の燃料になっただろうし、一部は旧ソ連の核兵器に使用されただろう。
鉱山の傍らに、「ウラン残土置き場」がある。「KEEP OUT」と英語で書かれた看板が立ててあるが、モンゴルの遊牧民は何のことか分からないだろう。
残土置き場に近づくだけでピーピー、警報音が鳴り出す。測ったら24マイクロ。これは福島の双葉町、浪江町など、「原発直近のホットスポット」と同レベル。ウランの恐ろしさをあらためて痛感する。
「トイレなきマンション」に トイレを無理矢理押し付け
▲マルダイは首都から離れた遊牧民の村だ
▲モンアトムジャパンが提示する核廃棄物輸送ルート 私は、このマルダイ周辺に「核物質最終処分場」が作られるのでは?と疑っている。以下、その理由を述べる。
福島原発事故を経験した日本では、おそらく今後、「原子力発電所の新規建設」は難しいだろう。原子力ムラが生き残るためには、外国に原発を輸出するしかない。日本が原発を輸出しようとしている国は、ベトナム、トルコ、サウジ、インド…。特にベトナムではロシアに次いで日本が受注。すでに候補地も決まっている。原発輸出をめぐって、ロシアや韓国としのぎを削る日本。その際のセールスポイントは、「包括的燃料サービス」。
「あなたの国の原発から出たゴミは残しません、日本が責任もって回収いたします」というもの。えっ?ではベトナムの原発から出た核のゴミを日本に持ち帰るの?
ご存知の通り、日本の各原発の敷地内には、すでに使用済み核燃料がほぼ満杯。青森県六ヶ所村のプールもほぼ満杯。とても受け入れる余裕はない。
そこでモンゴルの大草原が狙われた。広大な土地に、少ない人口。そしてモンゴルはウランの生産国。「ゴミは生産地に送り返せば良い」のだ。
逆にモンゴル政府からすれば「ウラン輸出で儲けて、核のゴミ処理で儲ける」ことができる。ここに日本とモンゴルの利害は一致し、計画は水面下で進められているのだ。
広大なモンゴルで、マルダイは、最も埋められる可能性が高い場所だ。それは(1)首都ウランバートルから遠い(2)少数民の遊牧民の村で、反対運動が起こりにくい(3)西風が吹けば放射能は中国へ流れる(4)ウラン鉱山があり、生産地へ戻す、という建前(包括的燃料サービス)が成り立つ。(5)すでに調査のための予算がモンゴル国会を通過している。(6)将来、日本から核のゴミを運ぶことになれば、一番近い鉱山がマルダイ。
ページ上部の地図は、「モンアトム・ジャパン」という大阪市に本社を置く企業が作成したもの。「モンアトム」はモンゴル政府直轄の原子力企業で、「モンアトム・ジャパン」は、その日本支社という関係だ。
311の衝撃はいずれ冷めていくだろう。メディアが福島の事故をそれほど流さなくなる頃、人々の記憶から震災と原発事故が消え去っていく頃、この計画は表面化し、一気に進んでいくのではないか?
ウラン鉱山のそばに遊牧民のゲルがあった。零下10度の寒風が吹き付ける中、夫婦で家畜に水をやっていた。「最近、井戸の水位が下がっている」と遊牧民のおじさん。そばで中国系企業がウラン鉱山を掘っている。水脈を切ったのか。それとも地球温暖化の影響で雨が少なくなったのか。おそらく両方だろう。
何も知らない遊牧民に核のゴミを押し付けていいのか?
処分場ができてしまえば、原発は再稼働のハードルをクリアしてしまう。「トイレなきマンション」のトイレを無理矢理、貧しい外国に押し付けてしまおうということだ。これはモンゴルだけの問題ではなく、私たち自身の問題でもある。