じぇじぇじぇ!新聞の見出しを見て、私はのけぞった。「慰安婦必要だった」「沖縄の米軍には風俗を活用してほしい」。なんやこの人は!戦時下の性暴力である従軍慰安婦制度がなぜ必要だったと言い切れる?これは世界から猛反発を喰らうし、「大阪の恥」ではないか!女性の人権、いや男性をもバカにした「暴言」には、怒りを通り越してあきれてしまう。「なぜこんな人物を大阪のトップに選んでしまったのか」。後悔先に立たずというが…。橋下市長の暴言が許せないので、ここでは今一度「従軍慰安婦問題」を考えてみたい。
(ジャーナリスト・西谷文和)
歴史が示す真実
1931年の満州事変から、日本軍はアジア各地に慰安所を作っていった。写真(1)は1938年、南京に開設された慰安所に群がる日本兵。(日支事変上海派遣軍司令部記念写真帳より)なぜ日本軍が次々と慰安所を設置していったのか?それは、(1)占領地、特に中国で日本兵による強姦事件が多発し、現地中国人の間に反日感情が高まり、治安回復のために作られた。(2)日本兵の間に性病の感染を防ぐためで、慰安所では軍医による「慰安婦」の性病検診も行われていた。(3)日本兵のストレス発散。休暇もなく長期現地に張り付かされた兵隊の中で「どうせ死ぬんだ」と、兵士の士気が落ちたり上官への反発で軍の規律が乱れることを恐れた。(4)機密保持。民間の売春宿から機密が漏れることを恐れた軍が、軍の管理監督の下に設置した。慰安婦が監禁されていたのは逃げ出さないためでもあるが、情報が漏れないためでもあったのだ。
二人の悲惨な体験
従軍慰安婦の体験談は山ほどあって、それぞれが涙なしには聞けない悲惨な体験だが、ここではお二人、紹介したい。
写真(2)の右手、妊娠している朝鮮人「慰安婦」が朴永心(パク・ヤンシン)さん。朴さんは17歳の時に、日本人巡査から「お金が儲かる仕事がある」と騙されて南京の慰安所に連れていかれた。そこでは「歌丸」と名付けられ、2階の19号室に閉じ込められた。言うことをきかないと軍刀で斬りつけられたり、拷問部屋で、全裸で体罰を受けた。その後ビルマに送られ、中国雲南省の苙孟(ラモウ)へ。苙孟は最激戦地で、日本兵は壕の中で自決玉砕するのだが、その中に慰安婦も2人道連れにされた(写真(3))。朴さんは自決の直前、隙を見て逃げ出した。この時助かったお腹の子どもは死産だった。「50年以上経った今も、黄色い服を来た日本人に追いかけられたり、首を絞められる夢を見ます」。朴さんは日本に来て、涙ながらに訴えてくれた。(2006年永眠)
トモサ・サリノグさんはフィリピン人だ(写真(4))。1942年、日本軍がやってくるとサンホセは日本兵であふれた。ある夜、2人の日本兵が自宅に来て連行しようとした。止めようとした父親はヒロオカ大尉に首を切り落とされ亡くなった。その夜、13歳のトモサさんはヒロオカ大尉に強姦され、処女を失った。それから毎日5人くらいの兵士に繰り返し強姦された。初潮前だった。慰安所から脱走を試みたが、オクムラ大佐に発見され、それ以後終戦までは奴隷のように扱われ、強姦され続けた。
強い者には媚 弱い者は叩く
橋下市長は、「当時は必要だった」「強制連行した証拠はない」と言うが、朴さんは騙されて連れ出され、トマサさんの場合は明らかな「殺人&強制連行」だ。
橋下市長は、「沖縄の米軍には風俗を活用してほしい」という発言のみ謝罪し、撤回した。
一方「慰安婦」たちにも、沖縄の人々にも謝罪していない。
彼は「スネ夫」なのだと思う。米軍や安倍首相など強い相手(ジャイアン)には媚を売るが、弱い相手は徹底的に叩く。弱者を叩くことで自分の人気を上げようとする。だから反撃されるおそれのない公務員や生活保護受給者を攻撃する。
もともと「慰安婦に関して強制連行の証拠はない」と言い出したのは、07年の安倍内閣だ。写真(5)はフィリピンの元「慰安婦」たちが、「私はレイプされた」「安倍首相はウソつきだ」と抗議しているもの。
今回の暴言はその背景に、「安倍首相(ジャイアン)に気に入られたい」という「スネ夫的」な算段がある。写真(6)は「なぜ僕だけが叩かれないとダメなの?」という彼特有の「責任転嫁」を示した新聞記事である。
危ない日本の進路
5月30日大阪市議会では各党の思惑が入り乱れ、すったもんだの末、市長に対する問責決議が否決されてしまった。「やっぱり維新はケンカ上手」などと報じるメディアもあった。
だんだん問題が本質からそれていってないか?
なぜ、こんなに悲惨な「従軍慰安婦制度」を日本軍が作ってしまったのか?戦後ドイツはナチスの犠牲になった方々一人ひとりに誠意ある謝罪と補償を行った。なぜドイツでできたことが日本でできなかったのか?戦後70年近くたって、なぜ安倍首相や橋下市長が「強制連行の証拠はない」と言い出すのか? こうしたことこそが問題の本質であると思う。自民党と維新の会のトップが、憲法を変えようとしている。この国はいろんな意味で危機に直面している。
●写真は全て「女たちの戦争と平和資料館WAM」より