トルコ~シリア国境、キリスではトラックが長蛇の列を作っていた。2年以上も続くシリア内戦。家を奪われ、家族を亡くし、日々の食料にも事欠いているシリアの国内避難民たちへ援助物資を運ぶのだ。私は今回食料ではなく、医薬品を運んだ。なぜか?シリアでは銃撃戦や空爆によって多数の怪我人が出ていて、点滴や酸素吸入はもちろん、麻酔も消毒用アルコールもない中で、手術が行われている。「医薬品を運ぶ」という名目で、シリア入国に成功。半年ぶりに潜入したアレッポは、やはり「人が簡単に死んでいく」激戦地だった…。
「スカッドミサイルだ。このガレキの下で140人が圧死した。一週間前だ」。通訳のアブードが苦々しくつぶやく。高層マンションが3棟、ミサイルでぺしゃんこになり、住民たちが圧死した現場。ガレキから血のついた毛布、女性のものと思われるカーディガン、新聞紙、おもちゃなどがのぞく。ここはシリア北部、アレッポ市のアンサーリ地区。スカッドミサイルは、ここから約350キロはなれた首都ダマスカスから飛んできた。最新兵器による無差別殺戮。撃ったのはアサド大統領の軍隊。これは立派な戦争犯罪だ。
ガレキの山は2つに分かれていて、中央にブルドーザーが停まっている。ガレキが道路を封鎖したので、ブルドーザーで左右に分けて道路を作ったのだ。
爆発の衝撃、爆風、飛んできた破片などで、隣のビルも崩れかかっている。ガレキになったビルと、辛うじて破壊を免れたビル。わずか10mのほどの距離が生死を分けている。崩壊を免れたビルの一階廊下を、3人の少女たちが通り過ぎていく。「死ぬなよ」。カメラズームで撮影しながら、思わず日本語でつぶやく。
そんな取材をしていたとき、ズーンと大きな爆音。近いぞ。またミサイルか?
今度は小型ロケット弾だった。ビルの屋上階から煙が上がっている。世界遺産に指定されたアレッポ城から撃ち込まれたのだ。アレッポは、空港と城がアサド軍の拠点。周辺商店街や団地、モスク、学校などは自由シリア軍が支配している。簡単に言えば、兵士の数は圧倒的に自由シリア軍が多いので、銃撃戦では自由シリアが優位に立っている。しかし最新の戦闘機による空爆、ロケット弾攻撃、スカッドミサイルなど「空中戦」を、アサド軍が支配している。
この写真は、取材前日、別のビルにロケット弾が命中し、崩れてきたビルの下で少女が圧死している。ドーン、ドーンとロケット弾が連射されている。あの音のする方向で、悲劇が繰り返されている。
アレッポ城にはアサド軍の兵士と、シャビーハと呼ばれる民兵たち、およそ200名がろう城しているらしい。自由シリアの兵士たちは、毎朝夕、この城を落とすべく銃撃戦を仕掛けている。そんな兵士に混ざって、最前線へ。
アレッポ城の周囲は、迷路のように入り組んだ路地になっていて、こうした街並全てが世界遺産なのだが、残念ながら、この歴史ある街はトータルに破壊されてしまった。
そんな路地の一角。カラシニコフ銃を抱えた兵士たち数人が一列に並ぶ。「アッラーアクバル!(神は偉大なり)」。最前列の兵士が走りながら叫び、城に向けて銃を撃つ。ダダダダッ。すると2列目の兵士が、すばやく路地の先まで走り込み、カンナースという大型銃を城に向けてぶっ放す。
突然の攻撃を受けたアサド軍のスナイパーが慌てて、こちら側に撃ち返してくる。チューン!その中の一発が路地に飛び込んだ。跳弾、つまり路地の石垣に当たった弾が跳ね返って、飛び込んでくる。カメラを持つ手が震える。あれに当たれば、下手したら死ぬな。
ひとしきり銃を撃ち合い、弾を装弾するために路地の一角に戻る。さっきの一列目の兵士、よく見ればまだ高校生くらいの年齢だ。「怖くないのか?」「神のご加護がある。アサドを葬り去るまで前線で闘う」。いつの時代も戦争の前線に立つのは若者だ。
アレッポ郊外のアルハダール病院。特別に許可を得て、緊急病棟を取材する。左足に銃弾が飛び込んだ7才の少年。麻酔なしでこの銃弾を取り除く手術をする。酸素吸入も点滴も不足している。子ども病棟には肺炎の患者が多数。空爆で家を奪われ、窓や戸が割れ、吹き抜ける冷たい夜風を浴びて眠るのだ。子どもが風邪をひいて肺炎になるのは必然。
最後に、トルコ~シリア国境のアトマ避難民キャンプを紹介する。ここは出入国管理事務所のある国境の町だったが、トルコに逃げてくるシリア人で町の人口が膨れ上がっている。昨年までシリア難民を受け入れてきたトルコ政府がこれ以上の受け入れは無理と、国境を閉ざしたためこのような逃げ切れない避難民キャンプができた。その数は急増し、オリーブ畑の中に17000人もテントを張る。2月は12000人だったので、一ヶ月に5千人増えている。シリア側にできたキャンプなので、治安の問題から国連やNGOの姿はない。水も電気もガスもない中で、寒い冬を何とかくぐり抜けた。
このまま放置すれば抵抗力のないお年寄りや子どもは、テントの中で病気になり死んでいくだろう。早急に国際的な支援が必要だ。
シリア内戦は、双方が化学兵器をはじめ最新型の兵器で大量殺戮を繰り返す悲惨な内戦になっている。一刻も早く、この戦争を止めなければならない。しかし国際的関心が薄く、和平交渉は遅々として進まない。ジャーナリストが殺される可能性が高く、情報が少なく報道もされない。国連の無力さを感じつつ、しかし、「戦争をやめろ」という世界的な世論を盛り上げ、国連を動かすしか方法はない。もどかしさを感じつつ、シリアで出会った人々の生存を祈りつつ。