ウクライナの通貨フリブナは、「銀の塊」という意味。そしてロシアの通貨ルーブルは「それを切り取ったもの」。これは何を意味するのだろうか?
ソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」には、広大なひまわり畑が出てくるが、あれはキエフで撮影されたもの。ウクライナは「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほどの肥沃な土地。歴史的にはまずキエフが栄えて、モスクワをはるかに凌駕した時代があった。
ロシア革命後、ソ連の一部になり、キエフがモスクワへ食料を供出した。スターリン時代、ソ連共産党は容赦なく農産物を取り上げたため、大量のウクライナ農民が餓死した。また東部には鉄鉱石と石炭があり、ロシア人労働者が移住し工業化が進んだ。さらにはナチスドイツの圧政から、ポーランドのユダヤ人が大量に逃げ込んできた。商売上手なユダヤ人は、都市部に住み着いた。ウクライナ人の中に、モスクワへの恨み、ユダヤ人へのやっかみ…。そんな複雑な感情が一定程度あるのかもしれない。このような「歴史的背景」を考慮に入れた上で「ウクライナ政変」を分析したい。
独立広場に築かれたバリケード。ホテル屋上にスナイパーがいて、ここで射殺された人へ花束が…。
ネオナチの拠点ビルは焼き払われていた。
美人で有名なティモシエンコ前首相の支持者たち。結果は落選だった。
いまだに身元の分からない「革命の犠牲者」もいる。
ガスの値段が高止まりすれば、結果的に米ロは満足?
今年3月、キエフの独立広場はまだ古タイヤを燃やしたすすで、全体的に黒っぽかった。極右グループが占拠していたビルが治安警察によって燃やされている。2月の「革命」で、犠牲になった人々の遺影と花束。デモ隊が築いたバリケードが幾重にも続く。
ヤヌコビッチ前大統領の退陣を求める人々は、最初は武器を持たずに、平和的な集会を繰り返していた。独立広場のデモは日に日に大規模化し、大群衆がウクライナのEU加盟とヤヌコビッチ政権打倒を叫び始める。このまま平和的に選挙になれば、大統領はおそらく選挙で葬り去られていただろう。しかし今年2月、事態は急変する。群衆の中に「ネオナチグループ」が紛れ込み、彼らが投石を始め、投石が火炎瓶になり銃撃戦となった。デモ隊と治安警察は一進一退を繰り返す。多数の犠牲者が出る中で、デモ隊が国会に攻めあがり、2月22日にヤヌコビッチが逃亡。「革命」が成就する。
ロシアのプーチンと癒着した独裁者ヤヌコビッチの退陣に、世界は拍手を送るが、「武装蜂起」してキエフの政権を乗っ取ったかのように振る舞う、ネオナチグループにも世界は眉をひそめる。テレビでは黒い覆面にナチスのカギ十字マークをつけた若者たちが大写しになる。ロシア系メディアは「キエフの暫定政府はネオナチに乗っ取られている」と繰り返し報道する。
連日そんなニュースを見せられたクリミア半島や東部のロシア系住民は危機感を募らせる。このまま座視すれば、ネオナチに町を乗っ取られかねない…。ロシア系住民は「ロシアへの併合」を求め始める。プーチンはすぐにロシア軍を派兵してクリミアを奪いに行く。
もしキエフのデモにネオナチがいなかったら…。平和的に大統領選挙が行われ、EUへの加盟が選択され、ウクライナは統一を保てただろう。逆にいえば「武装蜂起」で「早急な政変」になったため、プーチンの介入を招きクリミアを奪われ、東部にも紛争の種が残ってしまった。私はロシアのKGB(現FSB)がネオナチグループを送り込み、あえて暴力革命をさせたのではないかと疑っている。
クリミア半島にはロシアの軍港セバストポリがある。プーチンはセバストポリを借りる代わりに、ウクライナ向け天然ガスの値段を負けてやっていた。今や軍港はロシアのものとなった。賃貸料を支払う必要がないので、プーチンは天然ガスの値段を約2倍に引き上げることに成功した。
では米国はこの事態を前にして何を考えているのだろうか?実は天然ガスは「供給過剰」なのだ。ロシアのガスプロムという会社は、今回のウクライナ政変でガスの値段が高止まりして、おそらく笑いが止まらない。今後「シェールガス革命」で天然ガスを世界に売りまくる米国企業も、ウクライナ「政変」でガスの値段が高止まってくれた方が都合が良いのだ。もちろん緊張が高まれば、武器を売りさばく軍産複合体も喜ぶ。
このことは日本の私たちも無関係ではない。原発に代わるエネルギー源として天然ガスが注目されている。ガスの値段が高止まれば、電気代に跳ね返るし、庶民生活はますます苦しくなる。ウクライナへPKO部隊の派遣などという事態になれば、「集団的自衛権の行使」で、自衛隊はハナから派兵されるかもしれない。私たちの税金が戦争に使われ、福祉や教育が切り捨てられていく。
オバマやプーチンの背後には米・ロの大企業がいる。東電や三菱などの財界が政治家を操っている日本と同じ構図が、ウクライナ政変にもあるのだろうと思う。